2023年2月でpaletteが発足してから3年。今回は“paletteカケル”と称して、モデレーターの役割を担ってくれる方をお迎えし、palette編集部と話すという新企画です。”paletteカケル”の第1回目はまちづくりや青少年をサポートする活動に携わっている白川陽一(しらかわよういち)さん。part 1.ではそれぞれの身の回りの“社会”の変化について、座談会形式でお送りします。part 2.では”paletteのこれまでとこれから”について話し合いました。

2020〜2023年コロナ禍 周りの“社会”にどんな変化があったか?

なる美 2020年2月、paletteとして初めて波入重樹さんのインタビューをしてから、もうすぐ3年になります。今日の前半は、現在ユースワーカーとして働いていらっしゃる*白川陽一さん(通称:しらさん)とpalette編集部のメンバー(なる美、岩田、miho)とで、「自分の周りの“社会”にどんな変化があったか」ということを話します。後半は、しらさんにモデレーター役をお願いし、これまでのpaletteの活動やこれからのことを話していきたいと思います!
*2023年1月時点。現在、白川さんは転職しました。

なる美 まずは、それぞれ紙を配りますので、“自分の属する社会”について書き出してください。一般的には3人以上から“社会”と言われるので、家族も含まれますね。いくつか書き出して、それぞれどんな変化があったかということを考えていきます。では、お願いします。

~作業~

なる美 では、共有していきましょう!しらさんいかがでしょうか。

白川
「①家族、②地域(職場)、③施設(職場)、④オンライン」
まず、家族ですね。実家っていう意味の”家族”ですけど、去年妹が結婚して家族が増えました。あとは、仕事で関わっている若者たちとの関係です。色んなコミュニティに入っているので、そのネットワークがあります。例えば、大曽根は自分の個人的な開拓から始まって、今の仕事にも繋がっていった現場なので、そこの地域でのネットワークは充実してきています。また、職場の施設(ユースクエア)内での人間関係。あと、オンラインでの人間関係も結構増えてきましたね。専門であるファシリテーションという分野の「学びを核にしたコミュニティー」については、最近は国内だけじゃなくて、海外にいる日本人の方も増えてきていて、それも一つの社会なのかなと思います。

なる美 しらさん、ありがとうございます。私は、
「①家族、②キャンプの団体、③職場、④幼稚園、⑤オンライン」
私もまずは、家族。家庭と実家。義理の実家とうちの実家で考えれば、家族という社会は3つかも。大学生の頃からやってるaichikara という福島の子どもたちのキャンプの団体。palette、ウクライナの仕事です。それから、社会と言えるか分からないですが、子どもの幼稚園での関係性もあるかなと思っています。オンラインも幾つかグループに入ったりとか、入らされたりとかありますね(笑)。岩田さん、どうですか?

岩田 
「①家族、②映像制作者(職場)、③近所のご飯屋、④カメラマン(職場)」
僕は今パートナーと猫二匹と暮らしてるので、4人家族ですね。あと、映像制作者たちとの関わりですね。深夜まで打ち合わせしたりとか、お互いの家族の話もしますし、単なる仕事上の関係をちょっと飛び越えたような関係性があります。あと、僕は結構お酒を飲んだり、ご飯を食べることが好きなんですけど、家の周りに、魚屋、八百屋、肉屋、飲み屋等が幾つかあって、それぞれ週1ぐらいで行って、お金を落としていくというコミュニケーションをしています。それぞれあまり疎遠になり過ぎないように、顔を出しています。あとは、映画監督という立場とは別で、カメラマンとして関わる仕事関係もありますね。カメラマンの時は、監督として振る舞う時とは全然違って、名前すら知られてないかもしれないみたいな関係性があって、そこではなるべく黒子になるというか、存在感を消すようなかんじで関わっています(笑)。

なる美 ありがとうございます。mihoはどうですか?

miho
①家族、②職場、③友人(学校、ママ友、先輩や同僚)、⑤保育園」
私もまず家族ですね。子どもが一人いるので、3人家族です。なる美さんと同じで、自分の実家と、義理の実家との関係性もそれぞれありますね。あと、職場の上司や先輩方との関係もあります。あと、中学・大学の友人やママ友、前の職場の仲間のグループもいくつかあって、コロナ禍で会えない時は、結構オンライン女子会をしたりもしていました。それから、保育園の先生たち、保護者同士の関わりもありますね。

なる美 ありがとうございます。では次に、今挙げてもらったそれぞれの“社会”にこれまでどんな変化があったかを考えていきたいと思います。paletteがスタートした2020年2月は、ちょうどコロナ禍に変わっていったタイミングですが、どんな変化があって、どう感じたか、これから先はどんな風に変わっていくのか等をメモしてください。また、最後に先程のように共有したいと思います。では、お願いします。

~作業~

なる美 それぞれが先ほど挙げていた“社会”の変化について共有したいと思います。

なる美 私からいきますね。まず、家族の集まりがすごく減りました。私の夫は4人兄弟の末っ子で、うちの子たちも含めた甥っ子姪っ子たちが合わせて8人いるんですね。更に、お義父さんの兄弟も3人いて、それぞれ3人ずつ子どもがいるんです。だから、親戚が集まると40~50人ぐらいになって、おばあちゃんが亡くなった時なんかも、凄いことになったんですけど、最近は集まりがほぼないですね。

miho すごい大家族!!コロナがなくても全員集まるの大変そう!

なる美 夫のいとこ達も10人ぐらいいて、みんなで集まる“いとこ会”というのもしていたんですが、それも最近はないですね。家族だとオンライン飲み会とかもしないので、もう顔を合わせることがほぼなくなってしまいましたね。

miho うーん。寂しいけど、コロナ以来、みんなそうですよね。

なる美 あと、コロナ前、上の子が7か月だった時にベトナムに行ったんですね。下の子も生まれて、飛行機代もかからない小さいうちにまた行きたかったんですけど、結局下の子はコロナの影響で行けてないです。

なる美 岩田さんはどうですか?

岩田 僕はコロナ前から通勤せず家でずっと編集をしたりしていたので、自分のプライベートや働き方は意外とあまり変わっていないなと思いました。でも周りの人に話を聞くと、そんなことがあるんだと考えさせられる話も結構ありました。例えば、センシティブな話題ですけど、ワクチン問題ですね。昔からの友達夫婦に聞くと、夫は普通にコロナワクチンを打つけど、妻は絶対打たないと。

なる美 その構図、私もよく聞きます。

岩田 お互い気が合って、好きになって、家族という社会を作ったと思ったら、ワクチン一つとっても、考え方が真逆になることがあるんだなと不思議に感じました。そういった意味では、ワクチン問題がなければ露わにならなかったような、お互いの意思や考え方が、色々なところに出てきてるのかなと思って。夫婦だけでなくて兄妹でも、同居していると家の中で打つ派と打たない派で、分かれているらしいんですね。僕は全然どっちでもいいと思うんですけど、それが露わになってしまっているのがおもしろいなと思いました。

miho 確かにあれだけわかりやすく、全員が当事者になるような社会問題って今まであまりなかったかもしれないですね。

岩田 あとは、マスクの弊害を主張する人も周りにいて、難しい問題だなと思いました。マスクによる弊害も調べれば調べるほど出てくるので、最初はちょっとした違和感から始まって、どんどん強い意見になっていったのかなと思うんですけど、あまり良い方向ではない過激さをどんどん伴ってきた人もいました。そういった意味で分断みたいなものが明確になってきている気がしますね。

なる美 主張が強いと、対立関係になっちゃいますね。

岩田 そう、対立してしまうじゃないですか。情報の吸収の仕方も、どうしても過激なところから吸収してしまうので、話し方も過激になってしまうのかなと思いますね。そういう意外な一面や変化が見えることもあったなと思います。

なる美 “コロナで意外な一面が見えた”というのは他にも色々ありそうですよね。

“命”が一番大事 正論すぎて…

なる美 mihoはどうですか?

miho 私も、なる美さんが言ったように、家族で集まる回数が減ったのと、集まれてもご飯は食べずにちょっと顔を見るだけとなってしまったのが大きな変化でした。あとは、2019年の9月に出産をしたので、生まれて半年くらいでコロナが言われ始めて…最初の頃はみんなもっと過敏だったし、乳幼児だったので特に外に出ないようにして、本当に実家しか行かないような引きこもり生活でした。

なる美 買い物行くことすら躊躇する社会でしたね。ネットスーパー利用が増えたのもその頃ですね。

miho そういう時にママ友たちと、オンラインでお話したりするのが息抜きになっていたけれど、とはいえ、やっぱりずっと子どもと一緒という生活が大変で、自分らしさがなくなっていた感じがありました。出産後1年半経つぐらいに仕事を始めてから、ようやく自分らしさを取り戻して、生き生きと生きられるようになったのを実感しました。一人の時間も大事だし、家族の時間も大事だけど、やっぱり社会に属する時間も大事で、そのバランスが大切なんだなということに気付けたと思います。

なる美 バランス、本当に大切だと思う。mihoは「今日ワクチン打った」とか、「まだ打ってない」という話で世間が騒いでいた時に、引きこもり生活してたんだよね。

miho そうそう。ワクチンの話で、そんなに世の中がギスギスしてるとは知らなかった…!

なる美 ワクチン問題に関わらなくてよかったのは、ちょっと羨ましい(笑)。私は打たない派だったから、「優先度が高い方を優先します。」って良い言い方を夫に教わって、ごまかしたりして(笑)。

miho 私もなんだかんだ言い訳して結局打ってないです。

なる美 では、しらさんはどんな変化がありましたか?

白川 仕事の話になっちゃうんですけど、私はざっくりいうと今は公共施設で指定管理者として(=民間団体として運営の役割を担う形で)仕事をしているんですね。そうすると、コロナになってから“公共的な場所が閉鎖した”ということが一番大きな変化だったかなと思います。公共サービスの停止を、現場ではなくて、設置者(行政)が判断するというか、「有無も言わさず、緊急、臨時的に閉鎖します。」というような号令がかかって、急にストップするということが各地で起こっていて、身の回りでも結構ありました。

miho 公共施設閉鎖の影響力は大きいですよね。

白川 大曽根での地域活動や、イベントも全部なくなりましたね。今更強調するまでもないですが、「命が大事なので。」という論理がなによりも先行するので、命以外のものについては制限しようということで、“会うこと自体、存在すること自体がリスクです”と言わんばかりの状況になっていましたね。

miho とにかく、可能な限り誰とも接触しないように、というかんじでした…。

白川 あとは、ワークショップを運営したり、研修現場に行ったりというつながりもありましたが、その中でも諸に影響を受けていたのが舞台芸術関係者ですね。劇場が閉鎖して、稽古に集まれない、本番も迎えられないという状況になってしまって…。収入も不安定になり、文化庁もそういう政策的な介入をしてましたが、それでは足りずに困っていた方が大勢いました。命に対しての優先度によって、文化的な心の豊かさが断ち切られたということがありました。

miho 命が一番大事だと言われたら、正論すぎて誰も反論できないですからね。

白川 概して、繋がっていたものが切断されるということが、身の回りに起こっていた気がする。人間関係、制度、生活的なものも。仕事で関わった人たちとの関係性に諸に影響したというのが一番大きな変化でした。

なる美 そうですね。コロナに感染しないようにするという意味で、目先の命を優先されて、長期的にみた命が優先されないというか。文化的なものもそうですけど、NPOの活動でも、人が集まれないことが色んな影響を及ぼしたと思っています。NPOが主に対象としている、いわゆる弱者を救うことって、後回しにされているなあという印象もありました。“目先の命”が優先されている感じを強く受けましたね。数に現れるので、分かりやすいですし、それも大事ですけどね…。

白川 そう、難しいんだけどね。難しいんだけども、未曾有の事態だったから、“合理的に熟慮して”というのも当時はなかなか難しくて、“とりあえず”というのが長引いてきてしまったんですよね。理解はしているんですけどね。

miho 本当に難しいですね。未知のウイルスに対して、誰しもが探り探りの状況でしたね…。

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