“味を取る”ことを覚えたのは学生時代のアルバイト。
ーここで、紹介者が波入さんについてイメージする7つの言葉をお伝えします。
料理人、スペインとコーヒーが好き、ラ・マンチャ、優しいけど厳しい、厳しいけど優しい、こだわるところはかなりこだわる、挑戦し続けている
ー波入りさん、どう思いますか?
あのー、ありがとう(笑)。
ー美味しいコーヒーを頂きましたが、コーヒーも学生時代にやっていたんですか?
そうですね。アルバイトで。
ー紹介者の方と、一緒に7件回ったそうですね(笑)。
それは回りすぎだね(笑)。コーヒーがきっかけで、味覚に関して興味を持ち、楽しいなとか面白いなと思いました。これは今でも続いていて、ワインにも影響しています。私自身、ワインは好きですが、“味を取る”ことができないと、ワインの面白さを感じづらいと思っていて。“味の取り方”を勉強したのが、コーヒーだったんです。

ー“味を取る”とは、どんなことですか?初めて聞きました。
お客さんに説明するためには、「おいしい」だけでは伝わらないですよね。おいしい・まずいの判断は当たり前にしなきゃいけないけれど、美味しいの中にも幅があるんです。例えばコーヒーなら、「ある程度の酸味があって、そんなに濃くないコーヒー」という表現は普通ですが、「どんな酸味でどういう甘みなのか?」を感じることを、“味を取る”という言い方をします。
ー言語化する、という感じでしょうか?
そうですね。味を取ることの面白さを知ったのがコーヒーでした。ワインにも同じような世界があるので、当時コーヒー屋でやっていたことが今もすごく活きています。
ー料理でも同じように、味を取ると表現できるんですか?
もちろん。
ー面白いですね。
まだまだ実力はないですけど、そういう経験を積み重ねていくことで、お客さんに食の面白さを提供できるのかなと思っています。
ーお店が休みの日は何をしていますか?
毎週火曜日は名古屋駅のオーガニックファーマーズに仕入れに行きます。※そこの農家さんたちとずっと仲良くさせてもらっていて。季節によって変わりますが、知多半島とか、中津川市や下呂市の農家さんが来ています。
※現在火曜日の夕暮れ市は開催されてません。
波入りさんは、同じグループが土曜日にオアシス21で開催している朝市を利用しているとのことです。
ーちなみに、仕入れされているいうことは、休みとは言えないのでは・・?
(笑)。それはすごく課題で、それが当たり前だと思って4年間やってきたんですけど、ちょっと動き方を変えてみようかなと思っています。3月から※実は、定休日を2日に増やそうと思っていて。仕事の延長線上のことになりますが、休みの時にお世話になっている農家さんの畑にもっと行けるようにしたいなと。
※取材時:2020年2月

世の中が変わっていくのに、自分が変わらないことの方がおかしくないか?
ー他に挑戦してみたいことはありますか?
正直、まだ分からないです。でも、「分かんないなあ」と言っていても、いつまで経っても「分かんないなあ」なので、動いてみるしかないかなと思っていますね。売り上げがどう変わるかも見ていきたいです。それで暮らしていけなかったら、「諦めようかな」くらいの気持ちもありますね。こういうところは、普通の飲食店やずっと料理をやってきた人とは違うのかなと感じます。この業界は、“働いて働いて…”という姿勢が当たり前で、体力もあるのが当たり前の世界です。皆さんもなんとなく、イメージできますよね?(笑)周りの先輩の方たちも本当に体力があって、「なんでそんなに働けるんですか?」と聞きたくなるような方たちばかりなんです。自分もこの4年間ついていきたいなと思ってやってきましたが、「無理だな」と思い始めました。「自分はそこの世界ではないんだろうなあ」というのはちょっと感じています。
―4年間やってこられた中で、気づいたことがたくさんあるんですね。
4年間やってきたから、だんだん踏ん切りもついてきましたね。「違っても良いじゃん。よそと比べる必要ないよね。先代とも、比べる必要はないよな。1年や2年ですごく世の中が変わっていく時代の中で、自分が変わらないことの方がおかしくないか?」って思うようになりました。
ー変わることの必然性、ですね。
例えば、10年前に留学に行った時には、誰もスマホなんて持っていなかった。ところが10年経ったら、バイトの大学生もみんなスマホを持っているし、WiFiはそこら中で飛んでいる。10年でこれだけ変わったことに対して、「じゃあ、10年間で店は変わったのかな?働き方変はわったのかな?」って考えたんです。それで、「変わっても良くないか?」と、今年に入って思うようになりました。それで思い切って、「一回休んでみようかな」って、10日くらい前に決めました(笑)。夜この場所で、帳簿をひとりでつけながら、「来月から休むか!」って(笑)。
―(笑)!この先も、変化の激しい時代になるんでしょうね。波入さんの中で、この先やりたいと考えていることはありますか?
全然わからないです。でも、何も考えていないわけではないです。基本的には、10年後を見て生きていきたいなと思っていて。定休日を増やすことも、そのための決断でもあります。実はこの数年間、10年後の自分が想像できない自分がいます。学生時代だったら、「10年後こんなことやっていたいな!」と漠然とあったものが、今はない。「やばいな」と感じて、「ただ当たり前に店を続けていて良いのかな」と思いました。
ー続けてきたからこその思いがあるんですね。
店を始めたから、“店を続ける”ということだけが目標になっている気がしています。「そこからの発展が何もないんだな」と感じていて。もちろん、料理はこの4年間もこれからも、ずっと突き詰めて日々更新しながらやりますけど、それは店を続けようと思ったら当たり前のことなので。
ー当たり前にプラスαした、何か求めているんでしょうか?
自分の中で、「何かないかな?」とは、常に考えています。別に変わったことをする必要はないんですけどね。「余裕を持ちたい」とも言えますね。週1日の休みだけだと、片付けをして、帳簿をつけて…と、あーだこーだしているうちに1日終わってしまうので。
ー買い出しもしていますしね。
そう。ゆっくり考える時間とか、試してみる時間とか、新しいものに触れる時間とか、すごく限られている気がします。最初は何がやりたいかを決めてから休むことにしようかと思ったんですけど、見つからなくて(笑)見つけようにも、「その時間がないじゃないか」って気づいたんですよね。
ー休みが少ないと、考える時間もなかなか取れないですよね。
週に1日の休みだと、今の生活圏内から抜け出るとしても、どうしても一歩抜け出ることぐらいしかできない。でも、もう1日休みを増やせば、もう一歩踏み出せるかなと思っています。
自分の矛盾と向き合うために、無理をしてでも余裕をつくる。
ーもう一歩踏み出して、より深めたいことや、より広げたいことがあるんですか?
これも、まだよく分からないんです(笑)料理はもちろん突き詰めていきたいと思いますし、もっと“スペイン”を大事にしていきたい。地元の食材や生産者との繋がりも、どんどん強くしていきたいなと思っています。でも、畑に行けていないし、生産者に会いに行ってないな、とも感じていて。自分の中でそういう、色々な矛盾があるような段階です。“お店のこと”と、“自分の思い”と、“やりたいこと”。この3つの中で、矛盾を感じています。たぶんですけど、矛盾をなくしていくことが、一生の課題になるかなって最近思っています。
ーなるほど、矛盾ですか。スタンスとも言えるような感じでしょうか。
スタンスもそうですよね。考え方とか、スタンス。そういうのって日々の中で変わっていくものじゃないですか。昨日まで矛盾だったものが、今日は全然そうじゃなかったり。全然そうじゃなかったことが、蓋を開けてみたら「やっぱり矛盾してるな」と思ったり。そういう自分の矛盾に、やっと気付けるようになりました。
ーなるほど。自分の矛盾に気づくことは、大事なことですよね。
余裕がないと、この矛盾は絶対になくならない。「無理をしてでも余裕をつくらないといけない時に来たな」と思います。ガムシャラに毎日仕事をするだけではなく、自分なりの空間を作っていく時間をとらないといけない。私自身、特別な才能のある天才的な人間ではなく、ただの凡人だから「経験からしか生む事ができない」と思っています。でも、だからこそ、自分にもうちょっと余裕をつくってあげないといけないな、とも思いますね。
ー矛盾と向き合い、共に生きていらっしゃるんですね。
そうですね。もともとは学生時代に、色々な社会問題について話し合っていた人間なのに、店を始めてから全くそこに踏み込めなかった自分がずっといて。東日本大震災などの復興支援で活躍している仲間たちもいる中で、「自分は何をやっているのかな」と思ったり。今まで色々な活動をしてきたのに、そんな自分に矛盾を感じます。
ー波入さん、本当に自分に厳しいですよね。
うーん。厳しいというか、“そんな自分”に納得がいかないんでしょうね。「何かに踏み込んでいこう」とか、「もうちょっと社会に関わっていたいな」という気持ちから、年末に年越しの炊出し支援のお手伝いをさせてもらいました。「社会ともっと接点を持っていかないと、自分じゃなくなるのかな。」と思うこともありますね。
ー波入さんは興味の幅が広く、色々なことに関心がありますよね。でも、人の集まるところを作りたいというと、自分が定点にいないといけない時もあるのでは・・・?
本当にその通りで。結局そこのギャップが埋まらないし、そのギャップがどんどん広がっていく怖さを感じています。それが楽しければいいと思うんですけど、そうは思えない自分もそこにいる、という感じですね。
ー場を作るという点で、波入さんは、イベントや色々な催しにチャレンジされていますよね?。
そうですね。場を作って人を集めるというのは、本当に苦しい作業で、実はすごくエネルギーを使う仕事なんです。イベントをやることは自体は簡単ですけど、そこに人を呼んで、満足して帰ってもらうという仕事に対する努力は、「こんなにも大変なんだ…」と思います。ましてや、ホームパーティとは違い、お金をもらえないとできない場なので、それなりの仕事が必要になるんですよね。「うまいものは作らないかんし、異空間にしないかん。」と思って開催しています。

「人間が嫌い」でも、全部受け止めてしまう。
ーそういう中で、波入さんの判断基準は何ですか?何かを大切にしているから、考え続けて矛盾と向き合っているのかな、と感じました。
やっぱり人なんでしょうね。誰かが楽しくしている姿を見ると、一番落ち着きます。
ーそれはお店で、でしょうか?
お店でも、お店でなくても良いですね。「誰かの喜んでいる姿や、楽しそうにしている姿を見たい」というのが、自分のベースにあると思うんです。だから、うまくいかないことや思ったようにお客さんを迎えられない時には、腹が立つこともありますよ。
ーそんなことがあるんですね?意外です。
あるある。いっぱいある。反省しない日なんてないぐらいです(笑)
ーそれは…なかなか大変ですね。
うん。自分ではやっぱり余裕がないんだろうなって思うし、本当はもっと、“でーん”と構えていたいと思っています。他人に関わることで、自分の気分も上下しまし。誰かの問題で自分も落ち込むし、めっちゃ喜ぶし、嬉しいし…ということもあります。こんな商売やっておきながら、「人間が嫌い」なんですよ(笑)でも、めちゃくちゃ好きになるタイミングもあって、「人間っていいな」と、思うこともあります。だから、この仕事を続けられるんでしょうね。
ー人が好きじゃないとできない仕事なのかと思っていました(笑)
そうやって思うでしょ。でも、「そうじゃなくてもいいのかな」って思うこともあります。常識とは違う世界をつくってもいいのかな、と。もともと、普通に大学へ行って、留学もして、料理を学んできていないような自分がオーナーシェフをやっていることも常識ではないですよね(笑)人様の店をやっているということが、まず一般的ではないです。ずっと一人でやっているのも一般的ではないし、定休日を2日にしようとしてるのも一般的ではないし…。人が嫌いで、人付き合いが苦手な中で、ずっとやってきていることも、一般的ではないですね(笑)
ー人が嫌いというのは、苦手という意味なんでしょうか?
うーん、結局、嫌いだから苦手なんだろうね(笑)
ー今の波入さんからは、全然感じません(笑)「人から影響を受けやすいタイプ」とも言えそうですね。
「ほっとけばいいのに」と思うんだけど、昔から誰かの“良い”も“悪い”も全部受け止めてしまう自分がいます。自分の嫌いなところでもあるんですけどね。全部受け止めてしまうから、人当たりがいいって言われるんでしょうね。
ー誰かのことを、自分の中で悶々と考えてしまうんですね。
そう。でも「そういう人間がカウンターに立っていてもいいだろう」と思っています。
ーそういうオーナーシェフがいても良いですよね。
そう。「そういう人間だって、商売をやってもいいよね」という気持ちでいたいです。接客って、人付き合いが上手な人だけがやるものじゃないですよね。このお店を続けていくことで、その気持ちに説得力を持たせることができたらいいかなと思っています。
ー人付き合いが苦手な人の店、私は好きですよ。入った時に分かりますよね。むしろ、そういうお店の方が落ち着くという人もいると思います。
結局、全部仕事に関わってきちゃう。
ーそろそろインタビューを終わります。ところで、次のお休みは何をしますか?
飲みに行きますね(笑)とりあえず休むことからですね。ちゃんと一回休んで、リフレッシュをする。あとは、店のメンテナンスをちょっとやろうかなと思っています。
ーそれはつまり…仕事ですよね。
そうなんですけど(笑)、1日休みだとできないメンテナンスや、2日休むからこそ1日を使ってできる仕事もすごくたくさんあるんです。そういうところも含めての、2日です。もちろん、仕事に関わることで休むつもりです。何もせずに休むのは、基本的には考えてないですね。
ー波入さん、仕事に関わらない人生ってありますか…?
ないね。
ー…ですよね(笑)
結局、全部関わってきちゃいますよね。でも、いつまでこの人生が続くかは、全く想像できないです。あれだけ賑わっていたお店なのに、「あれ、今日は空いてない」ってことも、この業界では当たり前にあります。それを怖がってもしょうがないですからね。諦めるときは諦めた方がいいこともある。もちろん、辞めるつもりはないけど、難しく考えずにやっていきたいなと思っています。
ー最後に、波入さんは人生ってなんだと思いますか?
“分からないもの”ですかね。今の自分には、“分からんもん”としか言いようがないかなと思っていて。明日がどうなっている分からんし、今後の自分がどんな考えになっていくかも分からんし(笑)でも、それが悪いことだとは全く思ってないなくて、それでいいと思っています。分からんからこそできることとか、やろうと思えることもありますよね。「死ぬまでにちょっと、何かが分かればいいかな」くらいの気持ちでいたいな、と思います。
ー波入さん、ありがとうございました!
Shigeki Namiiri Interview
<編集後記>
“分からんもん”と語る人生に、そして仕事に、真摯に厳しく向き合い続ける波入さん。自分に対しての厳しい姿勢と人に対する優しさはまさに、知らず知らずのうちに、先代のオーナーから受け継いだものなのかもしれません。“世の中に変わらないものはない”と語ってくれた波入さんが、今後どんな変化を遂げていくのかー。その答えにはきっと、ラ・マンチャで出会えることでしょう。
インタビューの後、まもなく始まったコロナ禍。本当につくづく何があるかわからんもんだな、と。笑
正直、2020年はとても疲弊したのを覚えています。できる限りのことにチャレンジしてはいても、いつも何か不足している気がして不安を感じていましたし、コロナを巡るさまざまなやりとりに頭がついていかない日々でした。
その一方で、お客さんからは、飲食の場の大切さを痛感した、といった声をたくさん聞きました。実際とても多くの励ましの言葉を頂戴しました。助けていただきました。
でも、人って忘れていくんですよね。たった1年前のことなのに、もうずっと前のことみたいに思う。実際いつ頃がどんな状況だったかをさっと言える人のが少ないと思います。私もわかりません。
だからこそ、「後悔したくない」と今はとても強く思います。その日1日を後悔しないようにするためにはどうしたらいいのか。とても単純なその問いを中心に仕事に臨むと、無理ができなくなるんです。すると強制的に「余裕」が生まれる。手を抜いたり、楽をしたりするのとは違います。闇雲に全部をやろうとするのとも違います。足るを知る、身の丈を知る、そんな中で後悔のない仕事をする。そんな感覚です。
一年前に休みを増やすことで物理的な「余裕」は生み出せたと思います。コロナで時間はさらに生まれました。そして今は仕事の中での「余裕」を作っていきたい。それがどんな結果となるかをこれから見ていこうと思います。
そして、そうした繰り返しの中で、インタビューの時には全く見えなかった10年後が朧げながら見えてきました。この話は、ここまで読んでくださった方と10年後にでもできればいいなと思っています。
2021年7月 波入重樹

