23歳、“ノリと勢い”で決まった代替わり。

いいタイミングで波入さんが現れたという感じでしょうか。

そうだったみたいです。先代は、自分が動けなくなったら店を畳むつもりだったようで。「探しているような…いないような…」という感覚だった、と聞いています。私はメキシコ留学から帰ってきた20歳の時にバイトを始めましたが、「将来は飲食店をやりたい」と、最初から話をしていました。ただ、その時はここでやるとは思っていなかったんです。ここで勉強させてもらって、独立する方向に持っていけたらいいのかな、くらいに思っていました。

“将来は飲食店をやりたい”と、当時から思っていたんですね。

そうですね。10代の頃から、「人の集まれる場を持ちたい」と思っていて。その一番近道が飲食店かなあと、漠然と思っていました。飲食店の形態や種類は全然定まっていなかったけれど、本当にこうなったのはご縁ですよね。他にも喫茶店でアルバイトをしていたので、選択肢はいくらでもあったと思いますけど、スペイン語を学んでいたことも、このご縁と繋がったんでしょうね。最初はアルバイトとしてスタートし、働かせてもらううちに、先代の人柄やお店の様子が見えてきて、「良い店だな」って感じるようになりました。

―なるほど。代替わりの話は、どんなタイミングでされたんですか?

大学を卒業する頃に、先代から「どうする?」と言われて…飲みながらでしたけど(笑)「とりあえず、やらせてください。卒業してからもこのままお世話になります。」と返事をしました。

―そんなに早い時期だったんですね!

そうです。卒業した年です。そして先代から「1ヶ月間の休みをやるから、卒業後に一回スペインに行ってこい。その間にやりたいかどうなか、答えを見つけてきなさい。」って言われて、そこで初めてスペインに行きました。まあ、行く前から答えは決まっていたようなものですけど…。「1ヶ月間、考えてきます!」と伝えて、スペインを回りました。

スペインは本当に楽しい国で、料理も美味しくてとても良かったです。もちろん、全部が全部良いわけじゃなかったですけどね。差別されることだってあったけれど、そんなことも全部ひっくるめて、「面白い国だな」と感じました。帰国後すぐに、もう1度先代と飲みながら話をする機会があって。「どうだ?」と聞かれ、「やらせてください。」と答えた…という流れです。

―覚悟を決めるスペイン旅だったんですね。

そうですね。その当時、そんなに考えてないですけどね…。

そうなんですか?

やっぱり、若いからこその判断だったでしょうし。知らないからこその判断だったかな、と思います。

え?勢いですか? (笑)

その時は本当に、“ノリと勢い”だったなと思いますね。そうでなければ、あの判断はできないと思っています。今の自分がその場にいたとしたら、現実や大変さを知っているからこそ、ちょっと悩むだろうな。あの時の、何も知らない自分だったから、二つ返事で「やらせてください」と言えたんです。結局、そのお陰で今があるので、人生に“ノリと勢い”は大事かなと思っています。

“ノリと勢い”、大切ですね。

ただ、そこからの悩みの方が大きかった。「お金をどうやって用意しよう?親をどうやって説得しよう?料理はどうしていこう?商売についてはどこで何を勉強したら良いんだろう?」とか。全然知らないことばかりで、とにかく心配でしたね。

失敗を繰り返し、やっと自分なりの良さを出せるようになってきた。

先代からの常連さんも多いということで、責任も重く感じていたのでは?

それは感じますね。特に、代替わり当初の頃は重みを感じすぎていて、自分の首を締めていたところもありました。まあ、最初はそれで然るべきだったと思うんですけどね。ここ1年くらいで、やっとそれが解けてきたのかな。“意識しすぎても仕方ないな”、と。

最近なんですね。

あるお客様に、“守破離”という言葉を教わったんです。伝統を守る段階と、破る・壊していく段階と、離れていく段階があるんだと。最初の頃は、守っていくことが第一でしたが、徐々に自分のペースで一つ一つ積み重ね、組み立てていきました。今の段階は、だんだんそれが一個ずつ離れている頃なのかなと思います。大切にする物はしながら、“自分なりの良さ”というのがやっと出せるようになってきている感じですね。

なるほど、「守破離」ですか。波入さんが守ろうとしていたことは、どんなことでしたか?

先代と奥さんが、日々ここでやっていたことです。毎日の営業の中で、“お客さん・料理・スタッフ”に対して先代がやっていたことは、人には伝えられないこともいっぱいあると思っていて。それを自分なりに表現しようとしたけれど、できることと、反対にできないことがありました。自分がやったからって良いわけではないこともあったりして。

―試行錯誤されていたんですね。

オーナーシェフとしてはたったの4年間ですけど、失敗を繰り返しながやっています。もちろん、レシピ・味・サービスなどは、当たり前のように守っていかなきゃいけない。でも、最初から分かっていたことですが、全く同じ味の料理を作ったとしても、先代には勝てないんですよね。先代の味を知っているお客さんにとっては、例え全く同じものだとしても、同じではなくて。もう、“先代が作っていない”という時点でマイナスになっているので。だから、なかなか難しいんです。

なるほど。それは難しいですね…。

代替わりすぐの時には、「常連さんを裏切りたくない」という気持ちが、必要以上にあったと思います。それが原因で失敗してしたこともいっぱいありました。常連さんを意識しすぎて、「他のお客さんをないがしろにしていたんじゃないか?」とか、「気張りすぎて、店がうまく回っていなかったんじゃないか?」とか。思い浮かべるといっぱい出てきます。代替わりをしたことで離れていった常連さんは、たぶん山ほどいますね。「本当に申し訳ないな」と思うけれど、 「仕方ない」と思うしかなくて。それでも、自分のダメな様子をちゃんと見てくれているお客さんや、ずっと変わらずに通ってくれている常連さんもたくさんいるんです。本当に、感謝しかないです。

「こんな時期のラ・マンチャがあっても良いんじゃないか」という気持ちを持っている常連さんなのかもしれませんね。

そうそう。あったかい目で見てくれて、厳しいことも言ってくださる方もいます。本当にありがたいですね。そういうお客さんに救われて、ここまでやってきました。代替わり後にお客さんが定着してくれるのは、そんな常連さん達がいたからこそだと思います。だんだん自分のペースが掴めるようになって、まだ組み立てている段階ですが、0から始める人にはない難しさがあるのかなと感じています。

波入さんとお客さんとで、お店をつくっているんですね。

Shigeki Namiiri Interview

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