イタリアの生地、日本の裁縫…「掛け合わせってすごい」

ー今のお仕事と何かつながる部分はありますか?

すごく繋がってると思います。応援する人も含め、それぞれのスポーツによって着る洋服が全然違ったりするところは面白いですね。イギリスのフーリガン*と呼ばれる人たちとか、ゴール裏で大声を出すイタリア人とか、結構おしゃれなんですよね。自分の国のブランドの洋服を着て応援していたりと、着こなしはとてもシンプルなんですが、ファッションに気を遣っているんだなと感じます。本人たちはそんな意識はないかもしれないですが、「カッコいいな」と思います。
*フーリガン:暴徒化したサッカーファンのこと

ーさすがイタリア人、という感じですね。

BEAMSで働きだした経緯にも繋がりますが、BEAMSって、アウトドア、スポーツ、ミリタリー、ワーク、ビジネスとなんでもあって、その時々のファッションのトレンドを上手く取り入れたりして、旬なものとベーシックなものを大切にしているんですよね。洋服は昔から好きで、「やっぱりBEAMSってすごいな」と思っていたタイミングで、当時BEAMSで働いていた高校時代のサッカー部の友人に誘われて、大学3年生からアルバイトを始めたんです。だから働くことになったきっかけも、スポーツに繋がっていますね(笑)。

ーご友人が誘ってくれたんですね!森さんは、もともとファッションにも興味があったのですね。

中学生の頃から雑誌などに影響されて、ビンテージジーンズとか、裏原系のアベイシングエイプとかグッドイナフ、UNDERCOVER、コムデギャルソン、アニエスベーなど様々なブランドに興味がありました。

ースポーツからの流れを汲んで、今やBEAMSの店長さんになるというのがすごいですね。今日のスーツも、すごく素敵ですよね〜!

ありがとうございます。スーツって「自分は絶対に着ない」と思っていたんですが、ファッションでは避けては通れない道で、自分が年を重ねるにつれて、会った人に認めてもらうためには「ある程度ちゃんとした身なりも必要だ」と思うようになりました。手前味噌なんですけど、BEAMSのオリジナルスーツは、イタリア・イギリスで職人が丁寧に織った生地を、日本の職人が技術を集約して作ったスーツなので、袖を通すと本当に着心地が良いんです。生地はイタリアなんですけど、縫製は日本なんです、このスーツ。

ーそういう組み合わせもあるんですね

日本の人っていいとこどりで組み合わせるのがすごく上手だなあと思います。色々な組み合わせができて、次々と良いものが生まれていくという過程もすごく面白いですね。

ーなるほど。様々なやり方があるんですね。

BEAMSに入って「掛け合わせってすごい力を生むんだな」と日々感じます。毎日同じ場所にいるんですが、BEAMSのお店はとても刺激的な空間だと思っています。

ー「刺激的な空間」、客として、私もなんとなくわかる気がします。「掛け合わせ」というスタイルも、おもしろいですね。

「好き」が仕事に。「街が活気づくのが嬉しい」

「掛け合わせ」に関する別の話なんですけど…「グランパスが好き、サッカーが好き」と言っていたら、実際に名古屋グランパスのスタッフの方とつながったことがあります。「やまびこ」という栄のお店でお酒を飲んでいるときに、一緒に飲んでいた友人が、たまたま名古屋グランパスの方と繋がっていて、「呼ぼう」という話になり、途中から同席していただきました。

ーたまたまですか!すごいですね。

「グランパス創設の時からずっと応援しています。何か力になれることありますか?」と話したら、「是非お願いしたい」と言ってくれて…。Jリーグとしても初めてだと思うんですけど、日本のセレクトショップがJリーグのユニフォームをデザインするという、ちょっとセンセーショナルな取り組みがスタートしました。

ーおー!!人を通じて、掛け合わせが実現したのですね!

そのユニフォームの話がきっかけとなって、2019年にBEAMS JAPAN*とグランパスでお祭りを開催しました。BEAMS JAPANは「大名古屋展」、名古屋グランパスは「鯱の大祭典」というタイトルのイベントです。2019年は名古屋の夏がファッションとスポーツで盛り上がりました。
*BEAMS JAPAN:日本のモノ、コト、ヒトのさまざまな魅力を国内外に発信するレーベル。

ー楽しそうですね!

そうですね。行きつけのお店で好きなサッカーの話をしていたら、仕事になり、僕たちの愛するチームの選手がBEAMSJAPANのデザインしたユニフォームを着て戦うという…今振り返ってみてもすごいことだったなと思います。ちょっとしたきっかけで街が活気づくのを見れたことも嬉しかったです。

ー話を聞いているだけでも、ワクワクします!

豊田スタジアムの試合で、BEAMS JAPANがデザインしたレプリカユニホームを全部で8万枚来場者に配りました。

ー8万枚…!!!

すれ違うグランパスサポーターの皆さんが、BEAMS JAPANって入っているユニフォームを着て、喜んでくれているのを見た時に、泣きそうになるぐらいの高揚感がありました。楽しくお酒を飲んでいた時に話したことがきっかけでスタートした企画とは、とても言えないなとも思いましたが(笑)

ー確かに…(笑)

「好きって言い続けると、いいことあるな」と思いました。

ユニフォームのデザインは今年で3回目になりました。昨年は有松絞りをモチーフに、今年は、1995年に天皇杯で優勝した時のユニフォームをアップデートさせ、クラブ30周年を記念するのにふさわしい仕上がりになりました。サポートタウンの商店街の皆様や、鯱の大祭典にご協力いただいた皆様に、レプリカユニフォームを配布し着ていただくことで、街が活気づくのを目にすることができました。名古屋の街を活気づけるという意味で「役に立てたかな」という感覚で、すごく嬉しかったですね。

ーすごい!とても感動的なお話です。「好き」の威力すごいですね。

ユニフォームの完成発表の際に、名古屋市の河村市長や名古屋グランパスの小西社長とお話しをさせていただく機会がありました。その時に、異業種同士がタッグを組んでチームと街が活気づいたことに対して感謝と賛辞をいただきました。それまで接点を持つことがないだろうと思っていた方々に会えるだけでなく、頼られるようになったので、非常に嬉しかったですね。

ー森さんの活躍の場がぐっと広がったかんじですね。

もちろん、洋服屋なので、日々お店に立って仕事をしているのですが、ファッション以外にも社会に貢献できるような仕事をこれからもしていきたいなと思っています。

ーすごいですね。「好き」だけでなく、社会への貢献を思ってお仕事することは、とても素敵ですね。

ありがとうございます。ただ、自分は一人では何もできないので、周りの賛同してくれる方たちの協力がすごく大事だな、と感じています。ユニフォームの件も、「やろう!」と賛同してくれる人たちがいないとスタートできなかったことですし、仲間のみんなが自分のできることを最大限に発揮してくれたおかげで、うまくいったのだと思っています。

本物への投資「お金のやりくりに困りました」

ークラウドファンディングをやっていましたよね。

はい。世の中全体がコロナ禍となって、「大名古屋展」の、始まりのきっかけとなった立ち呑み屋「やまびこ」さんも大打撃を受けたんです。そこで、少しでも恩返しをしたいと思い、クラウドファンディングで応援することにしました。お店の子がカメラマンやモデルを進んで引き受けてくれて、クオリティーの高いものに仕上がりました。
*「やまびこ」のMakuakeサイト「名古屋の“狭すぎる酒場”「やまびこ」をBEAMSオリジナルグッズで応援したい!」

ー恩返しでやっていたんですね。

“BEAMS T”というBEAMSのTシャツのレーベルでデザインを担当していた、友人でデザイナーのAGOさんに関わってもらいました。それ以外はやまびことBEAMSそれぞれのスタッフが自ら進んで撮影や原稿作成を行い、形にしていきました。結果、”128名のサポーター・120万円”という金額が集まり、「やまびこ」は今でもみんなの出会いの場としての役割を果たし続けてくれています。

ー本当に様々なコラボをされていますね。普通のショップの店長さんとは違うお仕事をなさっている印象です。困難なことや葛藤はありますか?

お店に立ちながらも、外に営業に出るような仕事もあるので、自分がもう1人欲しいと思います(笑)。お店は頑張っているスタッフがたくさんいるので、信じて仕事を任せていますが、やはりお店の様子が心配になる時はあります。どちらも大切な仕事なので、自分の分身がいたらいいのにという葛藤はあります。

ーお店の仕事と外の仕事は同時にできないですもんね…。

そうですね。あとは、これから活躍する後輩を、どう育てていくかということですね。

ー森さんに続く方を育てないとですね…!森さんが働き始めてから何年経ちますか?

97年からなので、25年ですね。
*2022年10月時点

ー25年…人や文化の特徴も変わっていくかと思いますが、名古屋の文化の特徴はありますか?

名古屋の人って、大阪と東京に挟まれているからか、良くも悪くも影響を受けやすい土地柄なんだと思います。ファッションに対しても敏感で、流行を追うアンテナが高いと思います。今、トレンドはインターネットで目にする機会も多いですし、見たものをそのままボタンひとつで購入できるので、ファッションに対してのハードルは以前よりかなり下がっているように思います。ただ、25年間携わっていても「名古屋独自のファッション文化」というものはあまり浮かんでこないですね。

ーそうなんですね。

それは、僕は他の店のことにあまり詳しくなく、外で流行っているものに敏感じゃなかったからかもしれませんが…知ってないといけないんですけど…(笑)。どちらかというと、25年間ずっとBEAMSに没頭してきたので、その時々でBEAMSが推しているものの良さを感じながらお客さんに紹介してきたな。という感じです。

ーなるほど。BEAMSに没頭して、夢中だったんですね。

どっぷりハマった25年間でしたね。ファッション以外にも食器やインテリア、民芸品に興味を持って、自分で買ってみたりしたんですが、気がついたらかなりの出費をしていて…「だいぶやらかしたな」と(笑)。でも、軸になってるのはやっぱり洋服であって「BEAMSを通して名古屋を盛り上げたい」という気持ちはブレていません。

ーえ。「やらかした」とは…?

とにかく買い物の金額がすごいことになったというのが一つなんですが、過去に、スーツのオーダー会にハマったことがあります。

ースーツのオーダー会とはなんですか?

本場イタリア・ナポリから、毎年スーツの職人さんを東京の丸の内にあるBEAMSの店舗に呼んでオーダー会を開催しているんです。生地を選んで、その場で採寸して、半年後に半完成品が上がってくるので試着して微調整して数カ月後に出来上がってくるんですが、スーツやジャケットを1着作るのになんと”数十万円”かかるんです。

ひゃー!そんな世界があるんですね…!

その時は、本当にお金のやりくりに困りました(笑)。しかしその経験から、日本の既製品でも、イタリアのスーツと比較した時に「この値段でこの着心地だったら最高だな」と思えたり。ポジティブに考えれば、自分の経験からお伝えすることができるので、その時の投資が役に立ったなと振り返って思います。

ー確かに、本物を知っているからこそ伝えられることがありますよね。

はい。その時は「やらかしてたな」って思いますけどね(笑)。

ー深くのめり込むタイプなんですね。

どっぷりでしたね。いつもは浅く広くだと思うんですけど、「これだ!」って決めたらもう勢いよくお金を使ってしまうので「危ないな」とは思います(笑)。結局スーツ、ジャケット含め10着近く作ったので、数百万円は使っていますね。

森さんお気に入りの一着

ーへー!!ファッションに精通している方はみなさんそういうかんじなんですか?

いや、最近のスタッフの子は結構吟味して買ってますし、僕は異常な方だと思います(笑)。当時2007~10年くらいの間は狂っていましたね。スーツ売り場に異動になったのが30代だったのですが、お客様が自分より歳上の40~60代だったので、売り場のお客様の年齢に合わせたスタイルでお迎えしたかったという気持ちがあったんだと思います。

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