「喜んでくれるかな」今日のファッションポイント
ー「絶対スーツなんて着ないと思っていた」と言っていましたが、なぜそう感じていたのですか?
自分の中でBEAMSというブランドのイメージが「カジュアル」だったので、「スーツ」のカテゴリは未知の領域だ、という意識があったんですね。でも、年齢を重ねていくにつれ、出かける場所や出会う人が変わっていきました。自分の身につけているダメージジーンズや、カジュアルさに違和感を覚えたりすることもあった時に、きっちりとジャケットを着ている人が「格好良い」と思った時がありました。そのタイミングで異動が決まり、カジュアル担当からドレス担当になったので、必然的に毎日スーツを着ることになりました。
ーなるほど。異動があったんですね。
はい。異動した日から腹をくくって、一式揃えて売り場に立って、自分自身に「スーツが好きだ」と暗示をかけたりしているうちに、どんどん興味が湧いてきて、オーダースーツを作るまでになりました。成人式のときに量販店で買ったスーツが最初で、それ以来ほとんど着ていなかったので、こうなるとは思っていませんでした。
―今はスーツを来ている自分も好きですか?
そうですね。本当に面白いんですけど、スーツを着ていると、自然に背筋が伸びて体の中心に意識が集まるというか…。毎日着ていると、「ちゃんと背筋伸ばして歩かないと」という意識が徐々にできてくるんです。最初は「演じないと」と思っていたのが、自分の中でスーツを着ることで動き方が整っていくような感覚です。
―面白いですね。スーツに合わせて自分が整っていくんですね。
そうなんです。徐々にアイテムにもこだわりだしてしまって。今日は初めてお会いする皆さんに柔らかい印象を与えることができたらいいなと思ってラウンドカラー*のシャツにしたんです。起毛のスーツとネクタイで、温かさが伝わるといいなと。靴もツルっとした革じゃなくて、ふんわりしたスエードの靴にしようかな、とか。
*ラウンドカラー:襟が丸いこと
―わぁ…すごく気を遣っていただいてありがとうございます。確かに、普通のスーツと起毛のスーツは印象が違いますね。
服のことを深めていくと、すごく勉強になるんですよね。それは人間関係にも役に立ってて、「こっちに座ってもらった方がいいかな。」とか、「これを提案したら喜んでくれるだろうな」と、気遣えるようになりました。全部洋服のヒントとつながっている気がしますね。スーツって本当に奥が深いなと思います。

―私も勉強になります。自分の服が相手にどう影響するかを重視されていますね。
そうですね。基本、好きなものを着るんですけど、会う人や場面によって変えていますね。いろんな表現ができるので、やっぱりファッションはすごいなと思いますよ。だからスーツも好きで、スーツが最強だと思います(笑)。
―スーツ最強説!
例えば、“サルエルパンツ”ってありましたけど、今もあるかもしれないですけど、見なくなりましたよね。でも、スーツって、長い歴史があって、今でも世界中で着られてますよね。僕はまだ、全然極められてないですけど。
―確かに、スーツの存在は昔から認められているイメージがあります。
実は、今日履いている靴も、10年以上手入れしながら大切に履いています。最初は高いな、と感じていても、10年以上履いていれば元が取れますよね。革って体に馴染んでくるので、なくてはならない相棒みたいな感覚です。
―すごく素敵ですね。
―そのスーツの生地はウールですか?
これはウール100%です。
―そうなんですね!ウール100%は、珍しいです?
いえ、スーツの生地の代表格はウールです。コットンやシルク、リネンとかもあります。
―あ、そうなんですね…無知ですみません…。
いやいや。織り方によって光沢が出たり起毛感が出たりします。「ゼニア」というイタリアの生地屋さんがあるんですけど、糸の切れ端というか、廃材になる手前の物をもう一度織り直した、サスティナブルな生地を作っているんです。今日のスーツはその生地で作られています。SDGsの観点で作られた物は増えてきていますね。
―そんな地球に優しい生地があるんですね。初めて聞きました。
スーツを着こなす応援団長
―森さんは、他のお店に詳しくないということでしたが、行きたいお店とかブランドとかはありますか?
BEAMSの中に取り扱いブランドがたくさんありすぎて、なかなか他の店で買うことがないんですよね。だから、行きたいお店とかブランドはないかもしれないです。
―それだけ、BEAMS内にいろんな物があるということですよね。お店に行くと、いろんな種類や価格帯があるので、よくわかります。
アウトレットもありますし、mozoやららぽーとにも入っているライフスタイル提案のお店やゴルフウエアのお店など、いろんな切り口で展開しています。
―洋服と一口にいっても、その分野も幅広く、様々な可能性のある会社なんですね。
―7つの言葉をいただいていますが、すごくポジティブな言葉が多いですね。エネルギッシュでポジティブな方なんだなと思いました。パワースポットとまで言われています!
相馬 亜矢子(ビームス ハウス 名古屋 スタッフ)さんより
・名古屋のパワースポット
・スーパーポジティブ
・とことんストイック
・名古屋の応援団長
佐野 明政(ビームス ジャパン プロジェクトリーダー)さんより
・名古屋大好き
・人と人を繋げることが好き
大和 哲也(GRATINESS代表 / 大和ジム所属 / K-1ファイター)さんより
・愛に溢れ、熱く優しい男
―名古屋の応援団長も、面白いですね(笑)。
心当たりのある話がありまして…。
―お?ぜひお聞かせください!
98年サッカーフランスW杯の2戦目が日本vsクロアチア戦だったんですね。栄の交差点にある大型ヴィジョンで流れていた試合を、お店の仲間たちと観戦した時に僕が地下街の入り口のひさしの上に登って応援してたんですよ。そしたら、周りに人が次々と集まってきて、確か2000人ぐらい集まってしまって、一時交通渋滞で通れなくなっちゃったんですね。新聞にも載って、首謀者として僕が警察に連れていかれそうになって(笑)。「自然に集まってきただけです」って謝りました。
―えぇ!?派手なことしましたね!(笑)
1999年に中日ドラゴンズが神宮球場で優勝したときも、9月30日で僕、誕生日だったんですけど、お店の棚卸が終わって、速攻お店を出て中日ビルの前の広場の噴水に登って応援してました。2010年の11月2日に中日が日本一になったときも、同じ場所でみんなで応援歌を歌ってたら、タイロンウッズが来て、ウッズを囲んで大騒ぎしていました。だいたい何かあると中日ビルの近くにいましたね(笑)。
―めっちゃ色々やってるじゃないですか!(笑)それは今でも現役ですか…?
大人ですから、それはやっちゃダメですね。当時は、周りに乗せられてやっちゃいましたね。今でも、「やって!やって!」と周りに煽られることがありますが…(笑)。
―名古屋の応援団長という言葉がしっくりきました。今のスーツ姿からは想像ができないですね(笑)

これはただ身にまとっているだけで、実は隠しています(笑)。
―(笑)。ストイックという言葉もありますが。ご自身でも思いますか?
周りにストイックな人がたくさんいて、それに感化されて引っ張られている自分がいるかんじですね。僕、格闘技がすごく好きで、高校までは野球、サッカーとチームスポーツをやってきたのですが、大学に入ってからは「誰も頼れないようなスポーツ」をやってみたいと思って、格闘技をやり始めたんです。
殴り、殴られる世界
―格闘技ですか!意外です!
大学4年間、新空手という競技の同好会に入って、試合をしに東京まで行ったりもしました。BEAMSに入ってからお休みしていた時期もあったのですが、また26か27歳くらいでやりたいなと思い、金山にある「大和ジム」というキックボクシングのジムに入りました。そこから今まで約20年間そのジムに通っています。
―20年も続けているんですね!
はい。ジムの同期で、K1ファイターの大和哲也という選手がいまして…12歳年下なので、当時彼は中学生で、僕は社会人だったんですが、一緒に練習をして、アマチュアの試合に出たりもしました。彼と共にプロテストを受けて、2人とも合格して、彼はプロになってトップを目指していきました。
―おぉ〜!森さんも合格したんですね!
でも、僕は当時BEAMSにいたので、ライセンスを取らずにジムに残ることにしました。彼には「練習相手になるからね」と言って。その後、彼はK-1トーナメントの63kg級で優勝して、それからもたくさんの試合でベルトを獲って、ついにWBC*のムエタイ*部門で世界のベルトを手にしました。そして今年の4月に念願のK-1の世界チャンピオンに輝きました。
*WBC:世界的なボクシング団体。World Boxing Council。
*ムエタイ:タイボクシングのこと。
―え〜!すごい方なんですね!!

彼がストイックなので、一緒にいた分だいぶ引っ張られてきました。休みの日はいつもジムにいます。
―頻繁にジムに行くんですね!
「殴り・殴られる世界」って、すごく「非日常」ですよね。でも、終わったらちゃんとありがとうございましたっていう世界も「いいな」と思っています。リングに上がれば頼れる人がいなくて、やられる前に自分がやらなきゃいけない極限の世界なので、パンチや蹴りを受けると痛いけどすぐに技を返せることがあるんです。殴られても相手の隙が見えていて、少しスピリチュアルな話になっちゃうんですけど、感覚がすごく研ぎ澄まされているな、と感じます。
―極限の状態…確かに、「非日常」ですね。
実際に格闘技に触れてみて学べたこともたくさんあります。セコンドとして傍で見ていると、格闘技の試合って人生が凝縮されているように感じます。数か月間過酷な減量と練習で準備するんですが、試合時間は長くても3分3ラウンドか5ラウンドで決着がついてしまう残酷な世界なんです。「頑張ってきたから勝てる」っていう保証もない。「こんなにあっという間に終わって負けちゃうんだ」と思うこともあります。
―う…勝負の世界ってっかんじですね。切ないですね。
それは人生も同じで、負けるたびに落ち込むけれど、また頑張れば絶対に勝てる時が来ると思っています。結果が出て、幸せになれたり、強くなれたりするというところを格闘技から学べるような気がしています。
―格闘技って、奥が深いんですね…。森さんの幼少期の話もそうですが、周りの環境から常に学ぼうとされている方だなと改めて感じます。
分野ごとに先生を決めていて、年齢や立場は関係なくリスペクトして接しています。例えば、ジムですごく綺麗にストレートを打つ10代の子にも、手の動かし方とかを自分から聞くようにしていますし、スマホの画像処理に詳しい部下には、「俺の先生になって」と言っています。それぞれの分野ごとに、その道に詳しい人から「良いところを吸い取ってやろう」って思っています(笑)。そういう仲間は常に増やしていきたいですね。
―森さんの向上心とリスペクトの心、勉強になります。
―他に趣味はありますか?
歴史が好きです。戦国時代が大好きで、名古屋市には城跡屋敷とかが110箇所程あるんですけど、全部自分の足で走ってまわりました。名古屋16区にある城は全部で600キロぐらいでしたね。古墳も行ったりします。

―ん?600キロとは、どういうことですか?
あ、全部走って行っているので、計算しているんですよね(笑)。
―えぇ!そんなところもストイックですね!いろんな引き出し持ってますね!
時間があれば何かやってますね。このあともジム行きます!(笑)
名古屋が頼られる「地道にやってきてよかった」
―森さんは、「人生」って何だと思いますか?
そうですね…色々考えたんですけど…。「人の縁を大切にして挑戦すること」が、僕にとっての人生かなと思ってます。人と接することが本当に好きで、「人と人をつないで良いことが起こればいいな」と常に思っているので、その連続を死ぬまで続けていきたいなと思います。人とのつながり、掛け合わせで、もっともっと大きいものになっていくと信じています。
―ここまでお話を伺って、既にたくさんのつながりを生み出しているように感じます。
ありがとうございます。2019年にやった「大名古屋展」のイベントを見て、海外在住の映画監督から名古屋市の議員さんを通じて僕に電話があって、「是非あなたに、名古屋の映画の宣伝を手伝ってほしい。」と言われたんです。日比遊一監督の『名も無い日』という名古屋を舞台に名古屋で作られた映画で、「あなたなら色んな人につなげてくれそうだ」と言ってくれて、すごく嬉しかったです。
ーそれは嬉しい言葉ですね。
僕の紹介で繋がった、名古屋グランパスの柿谷選手と俳優の永瀬正敏さんがマッチアップした『名も無い日』のポスターを作ってもらい、名古屋の街や企業が異色のコラボを遂げたりするような不思議な現象が起こりました。「地道にやってきてよかった!」と思いました。
―そんな掛け合わせもあったんですね!
一度世界に行った人が、「やっぱり地元がいい」と思って帰ってきてくれて、名古屋が頼られるという構図がすごく面白いと思いました。そんな風に、「名古屋でもできることがたくさんある」ということをこれからも示していきたいですね。これからの時代は、どこにいても楽しいことができると思うので、色んな人が名古屋に残ってくれると益々楽しい街になっていくのではないかと思います。
―本当に、名古屋が好きなんですね。人と人とをつなげて、名古屋を更に盛り上げたいという熱い気持ちがひしひしと伝わってきます。“応援団長 森さん”の更なるご活躍を楽しみにしています!ありがとうございました。
取材日:2021年11月22日
場 所:WeWorkグローバルゲート名古屋