魅力度最下位…埋もれている資源を発信する
―大ナゴヤ大学や大ナゴヤツアーズがどんなことをしているか教えていただけますか?
大ナゴヤ大学はNPO法人で、自治体や学校などの組織でない、テーマ型で繋がるようなまちづくりのコミュニティーです。基本的には街を大学(キャンパス)に見立てていて、“参加する人が誰でも生徒だし、先生でもあるよね”というコンセプトの下、ボランタリーな市民参加で自分たちが知りたい街のことや、学びたい場を作ったり、参加者になったりという感じです。“みんなの大学”みたいな組織ですね。
―すごく楽しそうですね!
そこで僕は学長という代表職を3年半させてもらいました。その後、大ナゴヤツアーズという事業を独立させて別法人にしました。大ナゴヤ大学では“場を作る”ことをしていて、僕も直接現地に行くことが多く、名古屋の酒蔵に行ったり、街の歴史に詳しい人と街を歩いたりということをやっていました。“まちづくり”の文脈でやっていたんですが、時が経つにつれてそういうものが“観光”とか“街を楽しむ”目的で開催されている事例が全国的にも徐々に増えてきたんですよね。
―“まちづくり”から“観光”へと広がっていったんですね。
そんな中、2017年に観光をベースとした名古屋の魅力度ランキングみたいなもので、全国8都道府県の中で最下位だったんです。名古屋は行くところがないとか、何もすることがないとか、来てほしくないとか…(笑)。
―えー!悲しい。。。
ね。だから、シビックプライド*も含め、“何もない”じゃなくて、“それも楽しめる環境”をつくったり、観光でなくてもマーケットをつくるとか、そういう事例を増やしてもいいんじゃないかと思いました。大ナゴヤ大学は基本ボランタリーなので、参加費無料や有料でも500円程なんですけど、大ナゴヤツアーズは参加費をいただいてやっています。大ナゴヤ大学での様々な学びの中から、まち歩きや工場見学、モノ作りなどの体験要素だけをピックアップして、学ぶというよりはみんなでお出かけするような、もっと楽しい気持ちで参加ができる独立した経営モデルを作ろうということで、大ナゴヤツアーズという組織団体を2017年に立ち上げました。今、代表を務めて5年になります。
*都市に対する市民の誇り。
―なるほど!大ナゴヤ大学からそういう変化があっての“大ナゴヤツアーズ”なんですね!お話を聞いていると、すごく順調に進んできたように感じられます。失敗とかはあったのでしょうか?
もちろん!色んなことにチャレンジしてるから、お金のこともそうですけど、失敗の方が多いですよ。周りからの捉えられ方についても色々思うことがあります。自分としては観光目的というよりは、“観光という手法を使って、その街を面白がってもらえる人を増やす”というコンセプトはずっと変わってないんですけど、今は観光に関わることで声をかけられることが多くなってきちゃって、“観光業の人”みたいになっています。
―確かに、“ツアー=旅行・観光”というイメージが強いですもんね。
自分は観光をやってる気はさらさらないというか、観光客だけを対象にしているわけではないんですよね。実際に参加者の8 割ぐらいは地元の方です。あと、ツアー以外のこともやっていいと思っているので、ガイドブックや洋服を作ってみたりしています。今は器を作ったりもしていますね。

―洋服や器も作ってるんですね!ツアーというよりは、ナゴヤの街をより良くするために幅広く活動されているという印象を受けます。
全てのことを“体験”と見立てた時に、「この東海エリアの資源を使ってどう楽しめるのか」を常に考えています。みんな知っているようだけど、埋もれててあまり知られてないものをすくい上げて発信することで喜んでくれる人達もいるので、そういう機会をたくさん作りたいですね。
―地元のことを改めて知る機会って少ないかもしれないですね。住んでいる場所だと、あまり観光に行かなかったりしますよね。トロントに住んでいたときに、CNタワーという観光名所に行こうと思いつつ行ってなかったなと思い出しました(笑)。
名古屋の人にとっては、テレビ塔もそんな感じですね。
―山梨の人が富士山は登るもんじゃないと言ったり…ですよね。
そうそう(笑)。「名古屋のためにやってますよね」とか言っていただけることも多いんですが、“名古屋に住んでいる全員のために”という気持ちですね。政治的、公的な感じではなく、一個人として、せっかく暮らしてる場所なので、「こんなのがあったらいいな」というのを形にしてるだけで、やりたくてやってることなんですよね。それが結果的に「名古屋のためになればいいな」とは思ってるんですけど。

“場を作り続ける”コロナ禍は修行期間
―加藤さんの「こんなのあったらいいな」という素直な気持ちが人を動かすのかもしれませんね。
うーん、そうかな…。「週末何しよう?」って思った時にね、買い物に行ったり、お茶したり、映画見たりとかっていう選択肢はあるけれども、何かそれだけで満たされてなかったりしますよね。“自分にしかできない体験”とか“好きなこと”をもっと深められるような場所ってないのかなと思っていたので、そういうことができる環境や場所を整えただけなんですね。
―そうなんですね。
だから、例えば山に行って、ただ川に入って遊んでいるだけならお金のやりとりなしで楽しめるんですけど、ボートに乗って1時間インストラクターを付けたら5,000円の体験の商品になりますよね。何もしなければ、ぷかぷかとただ川で遊ぶだけの環境にしかならないけど、そういう商品の形を作ればそこに住んでる方とか地元に5,000円のお金が落ちるし、参加者も体験しやすい。なにもない環境で自由に遊べる人って意外といないんじゃないかなと思っています。
―なるほど。誰かのために、場所や道具の環境を整えてあげるということですね。
形をある程度作ってあげた方が、参加しやすい人もいるということに、大ナゴヤ大学をやりながら気付きました。だから街の魅力を発信し続けてきたけど、発信しても、その発信を受ける側がそれを享受できる場所がないと、「で?」ってなっちゃう。
―「享受できる場所がないと」とは…?
「情報は分かったけども、僕たち何ができるの?どう楽しんだらいいの?」っていうところまで、環境を整えてあげることは大事だと思っています。“発信発信”ってただ伝えることは「わりと乱暴なんじゃないのかな」と思って、その場を作るところまで意識していますね。
―大切な視点だと思います。すごく丁寧に考えているんですね。
―その先の目標のようなものはあるんですか?
今、何か目標があるわけではないですね。続けていった先にしかやれることってないと思うし。清水の舞台から飛び降りる気持ちがあれば飛び降りることはできるけど、うまく着地することはまた別というか…。「やろう」と思えば大半の人ができるだろうけど、“続けること”は大変なので、“そこに向き合い続けられるかどうか”ということが重要ですよね。
―飛ぶだけはできるけど、着地するには向き合うことが大事という感じですね。
だから、向き合い続けるためには“好きな気持ち”がないといけないと思います。しんどい時、逃げちゃったりするので、自分が好きなことや興味があることに取り組むことは絶対に必要だと思います。でも、自分のことばかり考えてやってると、辛くなってくると思うので、やっぱり人との関わりが重要ですね。
―“好きな気持ち”と“人と関わる”ということ、重要なキーワードですね。
大ナゴヤツアーズでも、「自分には何もない」とネガティブな考えを持っていた人が、関わった人達のおかげで、「こんなにポジティブになれた」という話があります。そういう体験が一つ増える度に、街を面白がれる人もどんどん増えていくと思っています。
―1人ひとりがポジティブになることで、街全体が活気づいていくんですね!
ツアーを体験した直後の人の表情を見るだけで分かるんです。参加する前と明らかに顔が違う。どういった社会が正解かは分からないですけど、そういう良い表情を目の当たりにすると、本当にコツコツとしたことだけど、人が介すことでそこに温度があって、これを続けた先が悪い方向に行くことはないと思うんです。
―そんなに表情に出るんですね!人と人とのその“温度”、とても深いですね。
だから、“そういう場をつくり続けること”が大事だと実感しています。でも、同じことをやり続けていても参加者が飽きてしまうので、自問自答を繰り返して、「もっと楽しんでもらえる工夫ってないかな」とかいうことは常に考えてはいます。
―場をつくり続けることって、すごく根気のいることではないかと思います。
そうですね。3年間やって、年間で300本くらいのツアーを実施できるようになって、「よし、これからだ」というタイミングでコロナに入っちゃったから…。参加することに不安を感じるお客さんも多いし、まだ手応えも掴みきれていません。
―「これからだ」という時にコロナ禍となったんですね。
はい。でも待ってるだけではなく、やれることをやろうと思いました。これから参加してくださる方はもちろん、久しぶりに参加してくださる方にも、「前より3倍、5倍ぐらい楽しくなってるじゃん!」って思ってもらえるように、パワーアップする修行期間だと思って、常にやれることはないかと思って動いています。

メール300通、雑談から何かが生まれる
―お話をうかがっていると、加藤さんの“向上心”や“ストイックさ”を感じます。
でも、自分1人だと結構サボりがちになっちゃうので、サボらないように意識的に人を巻き込むようにしています。「もっと街に出よう」って言ってるくせに、家にいると本当に何もしないでずっと寝てることもありがちなので(笑)。
―えー!意外です(笑)。
リモートでも繋がなきゃと思って、関係してる人に「30分しゃべろう」というメールを1週間で 300通ぐらい送って、色んな人とズームでしゃべってるだけの時間が1日何個もできたんですけど、それでパソコンに向き合う時間を作ったりしています。
―300通!?それはすごいですね。
ゴロゴロしないための意識的な対策なんですけど、「コミュニケーションをしようとしてくれてる」と、好意に受け取ってくれる方も多いのでありがたいです。でも、そこから何かが生まれることもあって。
―色んな方と30分話すということは、簡単そうで意外とできないと思います。それだけお話してると、確かに何か生まれそうですね…!
世の中にモノやサービスが出てきた時って、既にある程度完成されているけど、世に出ていない情報とか 自分の中で普段温めてるものって、雑談の中からしか出てこないので、「そういう時間ってすごく大事だな」って、やってみて思いましたね。
―遊びや雑談の中から、クリエイティブなことが生まれるんですね。
洋服や器を作ったり、ツアーに行く先のモノ作りのメーカーさんを見学させてもらったのも、きっかけはその雑談なんです。お客さんをその場にただ連れていく役割だとか、仲介の人だって決め付けてたらできなかったことだと思いますけど、ツアーに行く時は僕も“お客さんの1人”となって一緒に見ているので、モノ作りの面白さや凄さをひしひしと感じてるわけじゃないですか。
―“仲介する人”ではなくて、“お客さん”の目線もあるということですね。
はい。それで、実際に見ていると、作りたくなってくるんですよね。自分は洋服屋さんじゃないし、器の商社さんとか卸でもないけど、「僕みたいな人間でも作れるのかな」と雑談の中で話したんです。ロットとか金銭面とかいろいろ条件はあるんですが、相手の方が何でも作れる人なので、「いいよ」と言ってくれたので、「じゃあやってみるか」ということで、モノを作ることへのハードルがぐっと下がりました。
―そのつながりもすごいと思いましたが、「いいよ」の返答もすごいですね…!
その自分の体験をツアーにも活かしています。「こんなのがあったらいいな」とか「まだ世の中にないものをお客さん目線で伝えて、モノ作りをやってみようかな」とか、新しい発想が生まれてきました。
―加藤さんのモノ作りの体験が、ツアーに直結するんですね!
そうすると今度は、“売る”ことや“流通”のことも考えないと「仕事って回らないんだな」と、自分の中で体験するんですよね。“買う”っていう体験の場では、売り場や接客にどういう工夫があれば、お客さんにモノ作りを身近に感じてもらえるのかなと。百貨店にポンっと置いているだけじゃなくて…とか、また次の事を考えるようになります。そうすると、それがまたツアーにも生きてきたりして。
―すごい。体験がどんどん広がって、社会を考えるかんじになるんですね。
どんどんどんどん興味を前に転がして形にしてるっていう感じですかね。だから失敗もあります。だけど“何をもって失敗というか”ですよね。失敗したことだとしても、自分の中では学びとしてはめちゃくちゃ大きいですね。「やっぱり餅は餅屋だな」って気づかされる時もあれば、「でも何かやれるかもしれない!」っていうヒントに出会えることもあったり。
―失敗だと周りに捉えられても、自分にとっては大きな前進だったりしますよね。そうやって、大ナゴヤツアーズのツアーに1回参加するだけで、視野が広がっていく参加者が多いのだろうなあと感じました!
本当にそうですね!全然違うと思います!
―加藤さん自身が、自分の心と正直に向き合ってきたからこそ、失敗も学びにできる感じがします。
そうですね。“自分のやりたいことだけやる”と言うとエゴに聞こえるかもしれないけど、それって結構真理だと思っています。やらされて動くことは続かないから。「本当にそれって自分がやりたいことなの?」と、常に自問自答してますね。
―やりたいことは続きやすいということですね。常に自問自答している辺りに、ストイックさを感じます(笑)。




