もっと知ってほしい、愛らしい障がい者たち。
―障がいをもつ方と接する中で、気をつけていることはありますか?
今の施設の利用者さんたちはみんなとても純粋で素敵な方ばかりで、障がいのあるなしではあまり見ていないんですけど、一応「障がい支援区分*」というのがあって、それで言うとうちの施設は一番重たい方々なんですね。
*障がいのある方が必要とする支援の度合いを総合的に示すもの。1~6段階ある。
―そうなんですね。
大人と子どもで、基準がちょっと違うんですけど、大人だと6が一番重度で大変だし、どこの施設でも断られてきたような方ばかりなんですね。
―断られるというのが、あるんですね…。
はい。就職したての時は利用者さんに毎日噛まれていましたし、部屋の窓ガラスもどこかで割れているみたいな感じでした。冷蔵庫や洗濯機がぽんぽん倒されたりとか、いろんな場所で椅子が飛んでたりとか、本当にそういう意味では大変な方々ばかりなんですけど。
―大人の方だと普通に力もあるので、油断すると怪我にも繋がりそうですね。
でも、すごく愛される方々なんです。人を噛んじゃったり、何かしてしまう時って、その人自身が困っているし、不安だからやってしまうんですね。むしろめちゃくちゃ純粋な人たちなので、僕らの方が安心できる環境を作ってあげられていないとか、関わり方が落ち着かないとか、作業が合っていないとか、何かしらうまくいってない部分を彼らは全力で表現してくれているんです。
―どこかに必ず原因があるんですね。
それを支援する側が、場面や表情を見逃さずいかに汲み取れるかっていうところに全てがかかっているなと思います。
―とても細やかな注意力や観察力が必要ですね。
大変なんですけど、どうにかその原因を拾い上げたいと思いますし、そういう気持ちにさせてくれるのは、やっぱり利用者の皆さんが、“そのまま”でいてくれるからなんですよね。まさに先ほどの、大学時代に出会った男の子と一緒ですけれども、“まっすぐ”なんです。上っ面の関係や、気を使うことも良い意味で全くないですし、「嫌だったら嫌」ということを思いっきり表現してくれます。美味しいものを食べたり本当に楽しい時だったら思いっきり笑顔で飛び跳ねて喜んでくれますし、そういう様子を見ていると、こちらの心が洗われるんです。
―純粋な人をみていると、心洗われますよね。そういう力があるんですね。
周りの人たちを純粋な素の状態に戻してくれるというか、ありのままを思い出させてくれるというか、自分という存在が認められて、そのまま存在していいって思わせてくれるんです。本当に世間の人みんなが利用者さん達に会ってみてほしいなって思います。僕も大学の時に衝撃を受けたように、彼らと会うことで元気をもらえたり救われる人達って、めちゃくちゃいるんじゃないかなって本気で思っていますし、僕が今後やっていきたいこともそこに通じています。
―それはまだまだ世間に知られていない、福祉業界の良い一面ですね。すごく可能性を秘めている感じがします。
やっぱり一般的には、ここまで関われることは少なくて表面上しか見ないから、地下鉄とかで、ちょっとよくわからない行動をしていたり、何か独り言を言ったりしている障がい者の方をみると、怖く感じたりしますよね。僕もこんな仕事をしていても、偏見はないですけど、戸惑うときもありますし。
―むしろ世間一般の人々は、そういう外の場面でしか障がい者の方と関われないですよね。
全く知らない人達からすれば、そういうネガティブな反応は当然だろうなと思っていて。でもそれって何が足らないのかなと考えると、やっぱり知り合えていない。知る材料が今の世の中、制度的にも少なすぎるのかなと思っています。
―確かに。知る機会はほとんどないですね。
自分が今「LIVE YOU」というイベントをやっているんですけど、地元の幼稚園~中学生ぐらいの子どもたちを積極的に呼んで、うちの利用者さんたちとワークショップをしたり、アーティストに来てもらって舞台で一緒に盛り上がったりしています。

―インスタグラムも拝見しました!とても楽しそうでしたね。
「何か一緒に関わってみてよ」っていうと、ちょっとハードル高いと思うんですよ。どう関わっていいか分からないので。でも、ただ一緒に絵を描くことを楽しむとか、そういう場を用意してあげて、お互いが知り合う時間を増やしていけるといいと思っています。
ルールがない方が良い!?グレーがいっぱいのライブイベント
―「LIVE YOU」はいつから始まったのですか?
30年くらい前からやっています。初代の職員が歌が好きな方で、最初は身近な人々を呼んでイベントをしていたんですけど、ちょっとずつ話が大きくなって、奈良で結構有名な「たんぽぽの家」という施設の方と一緒にコンサートを開いたりもしていました。障がいを持った子どもの親に、育てる上で大変だったこと等を歌詞にしてもらって歌をつくったり、いろんなことやっていたんです。
―30年も歴史があったんですね!インスタは先進的なデザインだったので、最近作られたものかと思っていました。
その後、二代目の職員が、より地域に開けたイベントにしていこうと、どんどん人を呼んで、「もっと自分自身のことを認められて、参加している全員が主人公になるようなイベントにしよう」というコンセプトで活動を広げていきました。
―どんどん「LIVE YOU」もアップデートされていったんですね。

当時から自分も関わってはいたんですけど、1、2年前に僕が引き継いで中心になってやらせてもらうようになりました。それまでのオーナーの思いを大事に引き継いで、本当に参加する全員が主人公になれる、自分の居場所になるような空間を作りたいと考えています。
―参加する人全員が主人公になれる、とは?
表現する全ての人を応援したいと思っているので、舞台に立ったことがない人や、学生や小学生のバンドとか、落語をやりたい人とか、みんなのやりたいことでステージを作り上げていくようなイメージですね。
―やりたい気持ちがあれば、素人でもオッケーなんですね!
ステージ部門、マルシェ部門、アート部門等、いろんなコーナーを設けていて、盛り上がってもいいし、ゆっくり静かに見てもいいし、誰かとお話ししててもいいし、本当に自由に過ごしてもらう空間にしています。ある意味、決め事を作らないイベントで、グレーな部分がいっぱいあるというのがコンセプトだと、自分の中では思っています。
―グレーな部分ですか。イベントをやるとなったら、普通は決め事作りますよね。
一般のコンサート会場とかだと、劇が始まる前は静かにしなきゃいけないとか、飲食禁止だとか、車椅子の方は席が決まっていたり、立ち上がってはいけない、といったルールがいっぱいありますよね。あえて、そういったルールを作らないことにしています。怪我につながりそうな時は多少声をかけますけど、ほとんどそういう場面もないぐらい、「好きな場所で好きなように過ごしていいですよ」っていうスタンスで見守っています。
―それは本当に自由で気持ちが良いですね!そういう場所なら、小さな子どもでも連れていきやすいです。
「“相手のことを認めようとする心”だけは皆さん大事にしてね。」と伝えています。
―どんなハプニングが起きても、相手を認める気持ちがあれば、きっとすごく温かい空間になりますよね。
今池とかでライブをやっているようなプロの方も結構来てくださるんですけど、演奏中にボーカルとギターの間を利用者さんとか子どもたちが駆け抜けていったり、途中でマイクを奪ったりすることもあって(笑)。全然知らない子たちが「アンコール!アンコール!」って突然言い出したりとか。でもそれもOKで、みんなでライブを作り上げちゃおうっていう。

―わ!おもしろい!!
もうめちゃくちゃ面白いし、利用者さんとかも、普段そんな言葉を使わないけど、「アンコール!」って真似ていたりして。みんなが心で通じ合えるようなイベントになっている感じがします。
―そんな自由なイベント、初めて聞きました!
今でこそ、そういうイベントは、ちょこちょこ他でもあるみたいなんですけど、うちの取り組みは早かったと思います。
―会社の中の一つの事業なんですか?
一応そうなんですけど、最初は“遊び”から始まりました。
―サークルみたいな?
そうですね。それに近いと思います。だから職員も自由参加で、飲みに来るだけでもいいし、家族連れてきてもいいよって言っていました。でも、それが良かったんだと思います。普段の仕事もあるので、仕事だからといってイベントまで参加するのはきついと思う職員も結構いましたし、やりたいと思っているメンバーで作り上げてきましたね。
―グレーな部分をたくさん作るという話でしたが、企画の段階から自由な感じだったんですね。
そうですね。飲みながらやろうよ、みたいな感じでした。僕らが楽しまないと、そのイベントって成立しないと思っているので、僕らがまず楽しむことを大事にしていますね。

―そんなに自由な感じだと、「ここだったらできるかも」って、気楽にできそうな感じがしますね。
まさにそうやって言ってもらえることも多くて、座っていたり、立っていたり、見ていなかったり、目の前でハンバーガー食べてる人がいたり、みんなが自由にいろんなことをしているので、良い意味で肩肘張らずにやってもらえるのではないかなと思っています。
―そのルールのないゆるさの中で、危険なことは今までなかったんですか?
なかったんです。そこが面白いなって思っているところです。普段僕たちが利用者さんに関わる中で、「今は座ってお仕事しましょうね」とか、「はい、皆さんご飯ですよ~」とか、やっぱり集団生活の規律の中で支援をしていたんですね。でも、そのイベントで、自由に前に行ってもいいし、立ち上がってジャンプしてもいい空間を作っても、怪我に繋がったり、危険なことにはならないことが分かってきて、新たな学びになっています。
―なんだか逆説的ですね。
認められる空間を作ってあげることが、むしろ大事だったんだなと気付いたんです。指示的に「今座っていようよ」と言うことの方が、余計反発心が生まれるんですね。もちろん座っている方が安全な時はしっかり伝えなければいけないので、それとは区別しつつですけど。別に仕事中ちょっと立ち上がるぐらい良いじゃないか、っていうことを、スタッフたちが気付いてきたんですね。
―座っていたくないのに、「座っていて」と言われるのはストレスですよね。
そこまで厳しく言わない方が、利用者さんたちも快適に落ち着いて、むしろ仕事もちゃんとやってくれるんですね。そのイベントを通して、日常の支援にも良い効果が出ているなと思います。

―それまでのスタッフさんたちの価値観も覆ったんですね。
ルールを作らないでやってきましたけど、イベントで危険な状況になったことはないですね。気づいていないだけかもしれないけど(笑)。
―不思議とうまくいくんですね~。
認められる空間づくりが一番大事だったんだなって、自分自身も実感しながらやっています。
チームワークで笑いに変える“なんでそうなっちゃったの”
―お話を聞いていると、子育てにも通じるところがあるなと感じました。その器の大きさ、ほしいです(笑)。
子どもの施設の時は、もうちょっとしっかり注意していましたよ。子どもたちが危険度を認知しているかどうかがまだわからない段階なので、もちろんそことは区別しながらですけどね。
―素直に言うことを聞いてくれる子ばかりじゃないと思うんですけど、イライラするようなことはないんですか?
ありますよ!今でもあります!(笑)「なんで同じことやんねん!」みたいなこと、いっぱいあります!
―どうやって気持ちを切り替えているのか教えてほしいです。
そういう時は、みんなで共有していますね。チームっていうのはすごく強みで。「また服脱いどる…」ってみんなで呆れつつ…、「笑うしかないね、なんで今脱いだんだろう(笑)」みたいな。「座って」って言っても、2秒しか座っていないとか。イライラする時ももちろん何度もあります。でもそれをチームで共有して、「またやっとるねー!どうする?!(笑)」って。
―“笑い”に変えるんですね。
そう。そういうニュアンスはすごく大事にしています。利用者さんから元気をもらえる場面もあるんですけど、基本的にお世話をする仕事だと、心や体力をかなり使いますよね。上手くいかないことの方が多いですし。スタッフたちにも元気やモチベーションを持って長く働いてもらうために、チームで“笑いに変える”ことを意識していますね。
―素敵ですね!チームで取り組むところが本当に良いですね。
もう、これがないと本当にスタッフが潰れちゃったりもします。夜勤のスタッフは特に大変ですね。1人で見なきゃいけない時間もあるので、本当によく頑張ってくれているなと思ってます。今、べにしだの家では、僕は所長補佐という立場なので、その辺りの話を十分に聞けていないことに悩んでいたりもします。
―仲畑さんは所長補佐なんですね!マネジメント業務も多そうですね。
今、スタッフが100人近くいて、利用者さんも常に在籍しているのが60名ぐらいで、ショートステイ(1泊2日とかの短期間利用)の登録者も更に40名ぐらいいらっしゃるので、1人ひとりの話を聞いたり、マネジメントをすることの大変さを痛感しています。
―時間をとって全員と深くお話することはなかなか難しいですよね…。

―“笑い”を重視する企業風土は元々あったんですか?
そうですね。元々あったと思います。福祉業界ってまだまだ整備されてないところが多くて人手不足なので、利用者さんのご家族も一緒に夜勤をしてくださっていたりするんですね。笑うしかない訳のわからない行動をされた時に、ただ“イライラ”っていう負の感情だけで受け止めちゃうとお互い辛くなっちゃうので、ご家族もスタッフも含めて、ポジティブな受け止めをして、みんなで支え合いながらやってきた歴史があるのかなと思います。そういう取り組みに興味を持って全国から見学に来るぐらい、福祉業界ではうちの施設は結構有名なようです。その意思を今も大事にしたいなと思っています。
―まさに、スタッフさんだけではなく利用者さんのご家族も含めたチームワークが大切なんですね。
でも、コロナ禍でチームワークが弱くなってしまったんですよね。コロナ前は、「みんなで見ようよ」っていう雰囲気がもっとあったんですけど、感染を防ぐためにエリアごとに分かれるしかなくなっちゃって、スタッフ同士の交流も減ってしまったんですね。だからこそ、イベントでチームワークを改めて取り戻そうとしています。
―コロナで変わったんですね。イベントはチームワーク強化の役割もあったんですね!
SNSで、「なんでそんな大賞」だったかな…。福祉施設とか学校で、なんでこんなことになったんだろうっていう不思議な場面の写真とか動画にタイトルを付けて、「理解不能なものを楽しんじゃおうよ」っていう、取り組みをしている方が岡山にいらっしゃって。僕もすごく共感して、そういうニュアンスをべにしだの家にももっと取り入れたいなと思っています。今までもやっていたけど、「もっと楽しんじゃおうよ」って。
―捉え方で全然違いますね。
うまくいかないことが多いし、なんでこんなに大変なことをやり続けなきゃいけないんだろうって捉えちゃったりもしますから、結構潰れてしまうスタッフもいて…。働くモチベーションや楽しさを、自分はどう作っていけるのか、今そこに一番力をかけていますね。
―働く側の心のケアも重視されているんですね。
スタッフが元気なら利用者さん達も元気になってくれるし、逆にスタッフが落ち込んでいたりイライラしてると、利用者さん達もイライラしてるのが分かるんですよね。利用者さん達は、そういう察知能力がズバ抜けているので、常に周りの人たちの鏡でいてくれています。
―利用者さん達は、周囲の人の感情に影響されやすいんですね。
そうですね。だから、周りのスタッフ達やご家族の気持ちを、いかにポジティブにできるかが大事だと思っているので、そこに力をかけてます。
―コロナ禍以降は集合研修とかもされているんですか?
そうですね、やっぱり月1回ぐらいはみんなで集まろうよって言って、今はコロナ禍前の状態に戻しました。「別々の研修でもいいじゃないか」っていう意見もあったんですけど、「いや、大事だと思います。」って、所長とも何回か話したりして。
―仲畑さんの強い思いがあったんですね。
コロナ禍以降特に、最低限の会話しかしなくなったことで、「あの人って上手に利用者さんに関われるね」とか、「あの子は書類作りが上手いね」とか、仕事面でしか人を見なくなっちゃってるなって思ったんです。
―飲み会やイベント等もすべて中止でしたからね。
もっとパーソナルな部分をお互い知り合えないと、チームとして動けないなと思っていて。例えば、その人が実はお笑い好きだったり、歌がめっちゃうまかったり、パーソナルな部分に触れることで、仕事上でなにか不満があっても、「面白い部分あるじゃん」って、お互いが近づくきっかけになるんですね。だから、積極的にスタッフたちにバンドや漫才をやってもらったりして、今チームワークを取り戻しています。
―なるほど。そういった狙いもあったんですね。
仕事をやる、やらないだけで区別していると、チームとして良い動きができないんです。最初はみんなあまり乗り気じゃなくても、やってみると楽しいんですよ。
―それこそ、仲畑さんがずっとご自身で取り組んでこられた、“そのままを受け入れる”ということが、スタッフさん同士の関係にも言えますね。
まさにそうですね。自分が強く意識しているのは、そこなんだなと改めて思います。
―自分もそのままでありたいし、スタッフさん達にもそうであってほしいし、そういう心地よい空間でいれば、利用者さん達も快適に過ごすことができるっていう良い循環になっていますね。
そうですね、それが目指すところですね。できてると良いなと思いながら…。
―実際に、イベントをするようになって効果を感じることはありますか?
そうですね。うまくいったり、いかなかったり、まだまだ波はありますけど、やっぱりコロナ禍よりは、みんなの笑顔が増えたかなと思います。あとは、スタッフ同士が話し合える時間も増えてきました。
―目に見えて、会話や笑顔が増えるのは嬉しいですよね。
人対人の仕事なので、雑談なしで機械的にスタッフ同士が話すのは、利用者さんにとっても良くなかったですしね。
―不要な会話はしない、ソーシャルディスタンスでしたもんね。
そうそう。うちの法人が大事にしてきた、“みんなでやろうよ”っていう部分が遮断されてしまったので、本当に大変でしたね。それが原因で、今まで楽しくやってくれてたスタッフが辞めちゃったりしたこともありましたし、コロナ禍は辛かったですね。

