名古屋、俺の街、こんなにいいんだよ
ー深尾さんは、名古屋市役所でのお仕事が好きなんですね。すごく伝わってきます。
今、仕事楽しいんですよ。ちゃんと向き合って仕事ができていると感じていて、ここ十年くらいはずっと充実した気持ちでいます。とても恵まれていると思っています。名古屋市役所に入れたから今の自分の変化があったと思っているので、もし入ってなかったらと考えると怖いですね。同じような変化ができなかったかもしれないと思います。
ーでは、名古屋市役所職員は「天職」だと感じますか?
はい、天職だと思います。山田さんから学んだことですが、公務員が首になることはほとんどないからこそ、「名古屋のために真剣にチャレンジをしていかないといけない」と強く思っています。これは、いつも意識している考え方ですね。
ー公務員だからこそ、色々な挑戦ができるということですね。
そうですね。飲み屋で友達になった人に、僕が名古屋市役所職員だと話すと「え?はぁ!?」というリアクションになります。飲んでいるうちに僕の考えを理解してくれて「お前みたいな公務員がいるんだったら、ちょっとは社会がマシになるかもな」と言ってもらえる時は嬉しいですね。
ー市長になる日もあるかもしれませんね?(笑)
いやいや、出ないです(笑)。
ー天職だと思える仕事に出会える人って、一握りなんじゃないかと思います。
でも、最初は「え!残業とかあるんすか!?」とか、「聞いていた話と違う」と思いましたね。2~3年は「何なんだこれ…?だまされた…」と思っていました(笑)。今は、仕事があることが嬉しいし、自分の考えを反映できることも増えてきて、「すっげー少しだけど名古屋を良くできているかもしれない」と思えるのは楽しいですね。
ー深尾さんから「名古屋のために」という気持ちが伝わってきますが、「これをこうしていきたい」と思っていることはありますか?
名古屋の人って、名古屋の良さを素直に話せない人がほとんどだと思うんですよ。
ーはい、なんとなくわかります。
でも名古屋にはいっぱい良いところがあると思っています。東京に住んで、名古屋を外から見たことで、より強く実感しました。名古屋の人が「名古屋、俺の街、こんなにいいんだよ」と自信を持って言える街にしたいですし、そんな名古屋市民が増えたらいいなあと思っています。
ーなるほど。東京から見た名古屋、どんな感じでしたか?
生活する面では、日々の刺激は少ないけど、名古屋ほどいい街はないんじゃない?日本の中心に位置しているおかげで色々な場所にすぐ行けますし、家賃も高くないし。でも、「名古屋、楽しいよ」という自信のようなものは、皆んなあまりないんだよなあ…。海外や他県に行くと「俺ら、自分の街好きだけど何か?」という雰囲気を感じることがありますが、名古屋の人はあまりそういうのがない気がします。その都市に対する誇りとか愛着を「シビック・プライド」と言いますが、名古屋の人に「シビック・プライド」を持ってもらえるようにしたいなあと思いますね。
ーそうですね。「シビック・プライド」、いいですね。
あと、一般的に言われる話ですが、名古屋の人って外から来た人を上手く受け入れられないところがありますよね。
ーよく言われますよね。
もっと名古屋のことを紹介したらいいのになあと思います。自分の好きな飲み屋や子どもの頃にお参りしていた神社とか、それでいいと思うんですよ。それだけでも、県外や海外から来た人が「あ、名古屋いい所ですね」って絶対言ってくれるので。自分の街に自信を持って話せる人が増えるといいなあ…と思いますね。
中区区長「全然、見た目と違う仕事するねえ!」
ー本当に、そうですね。「シビック・プライド」という言葉、深尾さんを表す7つの言葉にも入っていましたね。
はい。この7つの言葉は、何人かの友人からもらった言葉です。
①名古屋市職員 ②母乳が出そうなパパ ③チャラそうに見えて真面目な所も
④名古屋愛(シビックプライド) ⑤飲めば分かる
⑥国籍年齢性別は関係なく人は自分に無いものを持っている
⑦自分と向き合うサウナ時間
ー母乳が出そうなパパ、面白いですね(笑)!
そうそう。妻に言いましたもん「いいなあ」って。
ー「チャラそうに見えてまじめな所」とのことですが…。
僕、大学生の時「チャラい」って言われたことがなかったんです。会社に入ったら初めて「チャラい」って言われて「ええっ!?どこが?」と。でも、中区役所にいた時、ちゃんと根拠のある数字を入れた企画書で区長に説明したら、「全然、見た目と違う説明するねえ!」と言われたことは今でも覚えていますね。
ー区長も、素直な表現ですね…(笑)。
区長とは、会って間もなかったんですけど…。
ーいいギャップを与えるのなら、「チャラい」もいいかもしれないですね。
そういう風にしたいですねえ。
ー名古屋愛やシビック・プライド、自分でも認識していますか?
そうですね。親が鳴海と本陣あたりの出身で、どちらも下町なので、今でいう「名古屋メシ」を子どもの頃から食べていました。きしめんやあんかけスパ、鬼まんじゅうも普通に食べていました。もちろん赤味噌です。ただ、僕が自分のシビック・プライドに気づいたのは、山田さんのおかげでもあります。それまでは、自分の街の事をここまで「好きだ」と言っていいかどうか、分からなかったんです。
ー確かに、当たり前のことって気づきにくいですよね。「飲めばわかる」も、面白いですね。
(笑)。そうやって言われましたね。お酒はそんなに強くないんですけどね、僕痛風ですし。
ーあらー。じゃあビールは良くないですね。
基本的に飲んでいますけど、あまり飲みすぎないようにしています。今は、なかなかできないご時世になってしまいましたね…。
ー「国籍年齢性別は関係なく人は自分に無いものを持っている」という言葉は、深尾さんがそういう姿勢だということですよね?
その言葉をくれたのは東京にいる親友です。アメリカ人の友達と3人でキャンプに行った時、「国籍とか性別はあんまり意識しないよねー」と言われましたね。その会話の時に僕が、「自分にない物を他人は持っているからどうのこうの〜」みたいな話をした気がしますね。それ覚えてくれていたのだと思います。
ーなるほど。深尾さんのポリシー的なことなんですね。
多分、そうですね。仕事をする際も、「自分一人だけだったら何もできんしなあ」と思って、「誰かと仕事しまーす」という傾向があります。特に、土木局の時は「誰が何をできるか」だけはよく知っていて、いきなり「ここ、やってくれませんか?」とお願いをすることもありました。
ーそうやって人を「つなげていく」のが深尾さんらしさをつくっているんですね。
そうだといいですねえ。
水風呂とサウナで、何か答えが出てくる。
ーあとは、「自分と向き合うサウナ時間」とのことですが、サウナがお好きですか?
最高ですねえ。はい。
ー満面の笑みですね!お子さんが産まれてからは?
行ってないですね。家で水シャワーをしています。基本的に、水風呂に入るためにサウナに行く感じです。
ーえー!そういう方もいるんですね!
そうですね。業界用語では「水通し」って言うらしいです。サウナに入る前にまず「今日のお水は?」と、確認します。大体何度くらいかは分かります。サウナはサウナで楽しみますが、水風呂とサウナのサイクルの中で仕事のことを考えていましたね。3回くらいやると、何か答えが出てることが多くて、忙しくてもサウナの時間は大事にしていました。
ーサウナもほとんど仕事だったんですね…(笑)!
妻の実家が富山なんですけど、富山のサウナは最高ですね。水がいいんですよ。トゲトゲしてないんですよ。
ーお〜!まろやかな感じ?
そうそう、まろやかなの、最高ですよね!「サウナの聖地」で静岡市に「サウナしきじ」という所があって、そこもいいんですけど、僕は富山の方が空いているから好きですね。「サウナしきじ」は混んでいるんですよね。あんなに並んでまで入るのは違うかな…と。東京では錦糸町あたり住んでいて、「黄金湯(こがねゆ)」というリニューアルした銭湯に、こだわりのあるサウナがあるということで行きましたが、サウナの前に裸の男たちがすごく並ぶんです!
ーえぇぇ〜。
サウナって「そういう事じゃない!」と思っています。すっと入れて、きれいな水がある富山が「最高!」と思います。安いし!本当に最高です!
ー今日一番の熱量ですね!(笑)
ーところで、深尾さんの人生に大きな影響を与えたニュージーランドのホストファミリーとは連絡を取ることはありますか?
それが、英語が苦手だったので、数回メールのやりとりをしただけで、そこから先は連絡してないんです。「いかんかったなあ」とは思っていまして…。ただ、ニュージーランドに行くきっかけがあったら、ホストファミリーがいるパーマストン・ノースに行きたいですね。僕のことは覚えてないでしょうけど「あなたたちと生活した20日間のおかげで今の自分があります」と言えたらいいなあと思いますね。
ー伝えられるといいですね!
でも、「誰だっけ?」と、キョトンとされるでしょうね…(笑)
ー私、高校3年生の時にオーストラリアでお世話になったホストファミリーと、数年前にバリ島の空港で偶然会ったんですよ。
マジですか、すごっ!
ー写真を見せて、「私ホームステイしました!」と話しに行ったら、「あ、何年くらいに来た子だよね」と言われてびっくりしました。5日程度の滞在だったんですけどね!深尾さんのホストファミリーも、意外と覚えているかもしれないですよ。
お〜そうだといいですねー!
ーでも、英語が苦手なのに国際系を受験したというのが謎ですね…。
そうですよね、「なんとなく」決めましたね。嫌いではなかったんですけど、理系に行ったら大変そうだと思ったので、「ま、いいや文系で」という感じでした。それから、自宅から地下鉄で行ける大学を選びました。
ーそんなゆるいかんじで(笑)。
中京大学は駅から遠くないしいいや、と思って。
ー確かに(笑)。
とにかく怠けていたので (笑)。その後は「法律あんまり読みたくないし」とか消去法で、「まあ英語でいっか」となりました。高校もあまり考えずに、自宅から近いところで決めましたね。
ーちなみにどこの高校でしたか?
松陰高校でした。
ーでは、御田中学校とか…?
はい、御田中です。家を8時半くらいに出ていたんじゃないかな。
ーそんなに遅くていいんですね!(笑)
そうそう(笑)。真面目ではなかったかもしれないけど、タバコとかは吸わなかったですよ!当時、松蔭高校はガラスが割れたまま直らない高校だったんですよね。
ーえ?!そんなかんじなんですか!今は、だいぶレベル上がってきているようです。
そうなんですか?すごいなあ。もう高校の時に色々やったので、大学の時には大人になったというか…「めんどくさいから坊主でいいや」という感じでしたね。
ー極端すぎる!(笑)
話は戻りますが、「英語がわかんないのに、なんで今の部署にいるんだろう」とは思います。
ー英語を話す機会も多いですよね?
毎回、「自己紹介では何と言えばいいかなあ」と考えながらやっています。大変です。いつもだましだましやっている感じです。
ーいやいや、ちゃんとお仕事されているのだと思いますが、表現がゆるすぎて面白いです。
当てもなく歩きながら、「面白そう!」を取り組む
ー深尾さん、心掛けていることや大切にしていることはありますか?
そうですねえ…。基本的には悪口や愚痴は言わないようにしています。自分で言って、自分の耳で聞くとすごく実感するので、あまりネガティブな発言はしないですね。
ー確かに、言うと意識しちゃいますよね。
あと、役所だと売上とかの数字が目に見えてこないので、手段を目的としている仕事がすごく多いと感じます。つまり、実施することが目的になってしまっていて「じゃあ、それは何のためにやるの?」というのが見えない時があります。「これは“このため”にやるものなので、やります」と整理することは意識していますね。
ー「例年これやってるから」という「目的」になってしまうんですね。
そうなんですよ。そういうのは嫌いですね。やめる時は「やめます」って言うようにしています。
ーこれからやりたいことは?
名古屋市役所はあまり国際交流とか国際協力、国際貢献を今まで積極的にできていなかったかもしれないと思っていて、名古屋が世界の色んな都市と一緒に課題を解決するなど、より良い名古屋にしていくために他都市との関係づくりをしていきたいですね。このエリアには、世界中に進出している企業が多いので、企業界ではそれができているんですけど、行政として「もうちょっとできるかなあ…」と思っています。
ーそうなんですね。
あと、SDGsの取り組みも気になります。これまでは自分と妻だけの人生でしたが、娘が産まれてから「この子はもしかしたら100年生きるかも?」と思って、「ちゃんとしないといけないなあ…」と感じています。何をしたらいいかはまだ分からないんですけど、今まで考えていなかったスパンで世の中を考えないといけないと思っています。そう思うことありませんか?
ー分かります。「娘が20歳になる頃、私は50歳だなあ」とか「いつか私もひいおばあちゃんになる日がくるのかな?とか。
そうそう。自分が子どもの頃は携帯もパソコンもなかったことを振り返ると、「自分の娘が20歳になった時はどういう世の中になっているんだろうなあ。それはいい世の中だといいなあ」と考えますね。娘が将来も名古屋に住んでいるなら、「住みやすく、良い名古屋だといいなあ」と思ったり。僕らが今直面していない、よく分からない課題に彼女がぶつからないといいなあ。
ー深尾さんは、人生ってなんだと思いますか?
「散歩」な気がします。あてもなく歩いている感覚です。アスリートのように「100m何秒切るんだ!」とか、明確な目標を持っているわけでなく、気軽に散歩をしていたら、いつも新しい景色が見えるような気がします。
ー散歩とは、面白いですね。
これからも楽しく散歩ができて、「あ!何だここ」という所を見つけられるといいなあ。「人生って、登山か?」とか色々考えたんですけど、登るのとは違うから「散歩」だなあと思いましたね。
ー深尾さんがよく言う「名古屋のために」と、「散歩」はどう関わっていますか?
散歩しながらゴミ拾ってたりするような感じですね。「名古屋のために」というのは散歩している目的なのかもしれないですね。「名古屋が良くなったらいいなあ…ふらふらふらふら…」みたいな感じで歩いて、何かあったら「お、面白そう!」と思って、取り組む感じです。