移り変わる時代の中で、敢えて守るアナログ感

ー信頼関係があるからこそ、相談も聞けるということなんだろうなと思いました。

そういう関係を大事にしてるんですけど、こういう仕事のやり方は「現代的ではないな」と思いますね。そこは僕の足りないところでもあります。結構アナログ人間なんで。“7つの言葉”にも応えてくれたんですけど、“なごのキャンパス” (https://nagono-campus.jp)の運営メンバーでもある岡本ナオトが10年来のパートナーでその点をフォローしてくれています。知ってますか?

ーお名前だけよくお聞きします!

彼は起業の時からのパートナーなんですけど、岡本さんってデザイン会社や街づくりとか色々やられている方です。常に使っているツールとか考え方が最先端というか、アップデートされ続けてるんですよね。今、別のコーヒー事業を一緒にやっているんですけど、そのプロジェクト内では信じられないことがいっぱい起こるんです。

ー信じられないことですか?(笑)

はい(笑)。だけど、僕がそこに追いつけてないから「信じられない!」って思っているだけで、「この先、どんどんこうなっていくんだろうなぁ〜」と思っています。一緒に事業をやっているとすごく刺激を受けます。Slack *の使い方を覚えたのも、そこが初めてだし。 
*チームコミュニケーションツール

ー最先端の刺激を受けているんですね!最近は色んなグループがSlackに移行しているのを、私も感じます。

時代の移り変わりって、放っておいたらアップデートしていけないので、強制的にされるような環境に身を置くってことも大事な気がします。だから、その開業支援の方法は、超アナログなんですけど、そこはそれでいいかなと思います。

ーアナログの良さもありますよね。

人が産まれてきた瞬間って、みんな本当に同じスタートラインじゃないですか。生まれてきたその瞬間は、たぶん現代社会でもはるか昔でも古の彼方でも変わらないですよね。育っていく中で、直接人と人が会ってコミュニケーションをとったり、必要とされなくなったりすると思うんですよね。

ー産まれた時は一緒でも、時代によって、環境は全然違ったりしますよね。

お店としては、“フルサービスにするかどうか”って、結構定期的に問題になるんですよ。忙しい時期だと、サービスするために2人追加で必要だったりします。「いらっしゃいませ」でテーブルまで水持っていく、メニュー聞きに呼ばれる、決まらなくてまた呼ばれる、飲み物持っていく、伝票を置く、水を注ぎに来る…って、当たり前だけどすごいじゃないですか。僕、この“フルサービス”っていう文化が20年後ぐらいに伝統工芸的なものになるんじゃないかと感じるぐらいです(笑)。

ー確かに、どんどんフルサービスのお店は減っているような…。

ラーメン屋でもパッドですよね。便利だし、経営者さんにとってはコストダウンになりますし。でも、こういう喫茶店にあってほしくないと思うんですよね。ここ(喫茶ニューポピー)がパッドだったら興醒めしませんか?

ーそうですね。この喫茶店のいい雰囲気で、パッドは嫌かもしれないですね…。

ですよね。そういうことを、スタッフとも共有するようにしています。「こういう意図があって意図的に残すんだよ」と。少し前もスタッフから「最近行った喫茶店、パッドになってました」とか、「ラーメン食いに行ったら、広い店なのに外国人の人が二人しかいなくて、パッドで回ってました」と話をしていました。そういう気づきも大切だと思っています。さっきの開業支援の話と一緒で、フルサービスを守り続けたらすごいレアケースになりそうじゃないですか?

ー私は「変わっていくんだな〜」ぐらいで、そういう視点はなかったですが、言われてみると考え方が少し変わる気がします。フルサービスって、これからの時代は“守っていくもの”というのも新たな感じです。

スターバックスだって、あんな人数を捌けるのってみんながカウンターに並ぶからですよ。あの人数がフルサービスの店に入っちゃったら、本当に大変なことじゃないですか。だからスタバとかコーヒースタンドにしか行かない若い世代がここに来ると、「水を入れてくれるんですか」とか、「こんなに何回も来ていただいていいんですか」と本気で言うんですよ。でもかつてはそうだったじゃないですか。これが“珍しい”と思われるんなら、今後さらに注目してもらえるのかなあとは思います。

ー本当にそうですね。尾藤さんとニューポピーを応援します!

ギャップの激しい情熱家

ー岡本ナオトさんからは“ポジティブ風ネガティブ”という言葉をもらっていますね(笑)。そこに説明文もいただいています。「普段は明るく楽しい方ですが、ふとした拍子に後ろ向きになります。表現者なので、感受性豊かなのが起因しているのかも!?」

そうなんです(笑)。なんか、考えすぎちゃうんですよね。岡本さんにはいろんな局面で相談してるので、前向きな時と後ろ向きな時の「ギャップがすごい」という話をよくされます。人には絶望の瞬間もあるじゃないですか。絶望にいる時も包み隠さないので、そういう意味かと思います。

ー絶望にいる時も包み隠さずにいられるんですね。

自分に起きることって全部自分が招いてきていることなので、あまり隠す必要はないかと思っています。

ーなるほど。岡本さんのことをそれほど信頼しているという感じなのでしょうか。

そうですね。うちの起業当時から外部役員で、お互いがまだまだ全然の時から一緒にやってきてるんで、僕のことを全部知ってくれていますね。

ーそういう仲なんですね。あとスタッフさんからは“追求心、探求心。良くも悪くも。”という言葉をいただいています。

コーヒーを入れる時、これは92度で、これくらいの挽き目で何グラムでやるっていうレシピがあるじゃないですか。でも、焙煎1日目と焙煎1週間後に同じレシピでやっても、同じ味にならないですよね。どういう成分がどういう温度帯で落とされてるかを何かで読んだとしたら、それを実践して“舌で記憶”していきたいんですよね。読んだ通りとか言われた通りにやっててもおいしいコーヒーってできないじゃないですか。

ーコーヒー一杯に、そんなに色々考えることがあるんですね…!

それで違ってくるんですよね。スタッフにも一球入魂じゃないけど、一投入魂してほしいですね。まずくなっちゃったら「ああ、うまく入れられなかったのはなんでだろう?こうだからか!」ってとこまでをセットにしてコーヒーを入れてほしいんです。「めちゃくちゃ美味しく入った、なんでかなあ?こうだからか!」ってとこまでが抽出であってほしいんですよ。

ー本当に奥が深いですね!

スタッフに言葉をもらったのが、そういう話をちょうどしていた頃だったので、僕が「ネガティブなこととかでもいいよ」と言ったら、「追求心とか探究心が半端ない」と言われました。「それっていいことじゃん!」と言ったら「いや、良くも悪くもなんですけど」って言われちゃって(笑)。

ー良くも悪くも…ぼかしましたね(笑)。

ですよね(笑)。入魂しているかどうかは、所作を見ればわかるので、スタッフにもそうしてほしいですが、やり過ぎな面もあるって感じですかね。

ーこだわりをもってコーヒーを淹れてくれることは、客としては嬉しいですけどね。

そうそう。お客さんにも伝わりますからね。

ー“厳しい、優しい、緊張感、愛”とスタッフさんからもいただいています。

尾藤さんを表す7つの言葉
・人の言うことは聞かない頑固なところがあり多趣味な仕事人間です!思いやりを兼ね備えてきた(母)
・娘大好き(妻)
・ポジティブネガティブ(ビジネスパートナー)
・追求心、探究心。良くも悪くも(スタッフ)
・厳しい、優しい、緊張感、愛(スタッフ)
・声がデカい(店長)
・映画『冷静と情熱のあいだ』ならぬ『独創と情熱のあいだ』そんな人・地に足をつけた夢想家が無双化した(バンドメンバー)

ー7名の方にもらっていただいて、過去最多の掲載数になっています(笑)。

もらったまんまです。

ー店長さんからは“声がデカい”と(笑)。

声デカいんです(笑)。グーグルマップのクチコミには基本的に良いことが書いてあるんですけど、面白いのがあって。平日の夕方に上の席でお茶をしてた人が「店内は空いていて居心地がいいと思ったら、下でオーナーらしき人が帰ってきて、そいつの声がでかい。何か機嫌が悪いのか、オンライン会議ですごい怒っているみたい。その声がここまで響いているのがすごく気分が悪い」ということが書いてあって(笑)。声デカいの自覚あるし、「気をつけなきゃな」と思ってるんですけど、なかなか直らないですよね。声のデカさって。

ー難しいですよね。きっと昔からそうでしょうし…。

あと声の通りもいい方だと思うので、益々デカく感じますよね。けど、爆音でやるバンドだったので、それも関係しているかもしれないです。今はギターボーカルなんですけど、当時はギターだったんです。当時、ボーカルが失踪して、失踪後、数年前ですけどたまたまテレビ見ていたら思いっきり捕まってて、地方のトップニュースになっていました。昔から変わらないやつなんですけど。

ー失踪ですか!しかも捕まってたんですか!

そいつが失踪した時に、バンドとしては続けたいけど、ボーカルがいないという状態になって、「どうしようかな」と考えた時に、「とりあえず自分が歌えばライブはできるか」と。それから歌い始めたんです。当時は英語で反戦に関する歌が多かったんですけど、まず英語喋れないし、反戦に関しても言葉を紡ぎ出すほど深いレベルではなかったので、スタイルを変えることにしました。歌詞を日本語にしてみたり、自分のベストなキーにしたりと、自分が表現したいことを考えながら歌うようになったら思いも強くなるし、声デカくなるじゃないですか。爆音なんで、余計に。

ーなるほど。声のデカさは昔からってことですね(笑)。バンドのメンバーからは、“冷静と情熱の間ならぬ、独創と情熱の間、そんな人”っていうお洒落な文が来てます!

曲作りをする時に抽象的らしいんです。普通は誰かが作ってきた1曲を、先にみんなに共有してからスタジオに行くから、曲を完成させるまでが早いんですよね。僕たちの場合はすごく時間がかかっていて、僕が「ここはこんな感じ!ここはこんな感じ!」って言うんですけど「そう言われても分からないし…」と言われるんです(笑)。

ー確かに抽象的ですね(笑)。

“こんな感じ”でやってもらって、「うーん違う、違う‥」って僕がなると、「それで不機嫌になられても…」って。そういうのを20年くらい繰り返してるんです。

ーそうなんですね。そういう意味の独創と情熱なんですね。

この言葉は僕のことを良く書いてくれてると思います。多分、「抽象的すぎるだろお前」っていうことだと思います(笑)。

ー気遣ってくれたんですね(笑)。

独創的なバンドが好きで、独創的に昇華されていれば格好良いと思うんですけど、当時は表現力がなかったんですよね。バンドの活動って、そのバンドのルーツが組み合わさってできていることじゃないですか。でも僕たち3人の間では各々のルーツが共有されていなかったし、相手の手癖を知るためにもっとセッションすることも必要でした。あと、妥協も必要でしたね…。

ー妥協ですか?

「一旦これぐらいにしよう」と決めて、それをレコーディングしてから一度客観的に聞いて、肉付けしていく工程にするとか、そういうことができていればもう少し苦労させずに済んだんですけどね(笑)。曲作ってライブでやったら「うーん、違う」と言ってその曲をやらないことにして、という繰り返しがしばらく続いたので。

ーなるほど、“抽象的”で進んでいっていた時期があったんですね。“地に足をつけた夢想家が無双化した(ダジャレだな)”というのもありますね(笑)。

彼もバンドマンなんです。銀行員で、その信用金庫一のスピードで出世してる人です。その人からは、バンドをやっている時は突拍子もないことばかり言ってたけど、自分で商売をやり始めたら、思ってたよりも地に足をつけてやってるから、「意外だ」って最近よく言われます。そういうことを言いたいんだと思います。

ー今、無双状態の尾藤さんなんですね(笑)。バンドマンの時と経営者の時と、何かが違うんですね。

でも、バンドのリーダーの人って結構経営者さん多いんですよ。他のバンドとの交流やコラボもするじゃないですか。自分たちを売り込んでいく為に、「あのバンドとコラボしてるの?!」ってちょっとザワつかせたりするのが上手なバンドが売れていくわけです。

ーバンドの売り込みが商売にも活かされるんですね!

バンドのリーダーをやってた方に20年ぶりに会ったりすると、福祉の会社を大きく展開していたり、飲食で何店舗もやっているということをよく聞きます。当時はライブハウスで一緒にやってたけど、20年後に仕事でコラボする時は最高に嬉しいですね。

ー素敵ですね。ちなみに、尾藤さんの好きなバンドはどんなバンドですか?

分かりやすいとこで言うと…“ゆらゆら帝国”って知ってます?僕、歌を歌う時に“誰といついつ出会って、こうして恋に落ちてこんな気持ちだよ”っていうの、絶対歌えないんですよ。ゆらゆら帝国はスリーピース*ですけど、抽象的で、小学生でも分かる言葉で紡いであるのに、めちゃくちゃサイケデリックな…ポップとかロックとかじゃなくて、「何ていうのこのジャンル?」ていう感じなんですよね。「何のことを歌っているの?」というのを本当にうまいこと形にしていますよね。
*スリーピース:3人組で構成されるロックバンドの編成形式

ー僕も好きです。(岩田)

好きですか!坂本慎太郎がソロになってからもいいですよね。ニューアルバムが出るのを知ってます?

ー知らないです…!(岩田)

ソロアルバムですけどね。4年ぶりぐらいに出るんですよ!

ー映画の主題歌にもなっていますよね!(岩田)

そうですね。「愛のむきだし」ですね。有名ですよね!

ー有名ですけど、どちらかというと、知る人ぞ知るっていう感じですかね?(岩田)

人に合わせるけど、合わせなきゃいけない場は苦手

ー苦手なことや嫌いなこととかはありますか?

計算、アウェーな場に行くこと、人に合わせることですね。仕事の時は人に合わせるんですけど、人に合わせることがめちゃ嫌いなんですよね。奥さんと二人の時は、奥さんが僕に合わせてくれていたと思うんですけど、家族で出かけるとサービスエリアについて降りて、トイレに行くなり、何か買うなりを自分のペースで動きたいんだけど、「何でそんな時間がかかるんだろ?」みたいなことがあったり。

ー子どもがいると自分のペース乱れちゃいますよね。

僕、起きて5分で家出れるんですよ。だけど、それは家族で動くには極端なので、「10時に出掛けようね」と話すんですよね。当然10時には出発したいんですよ。でも10時になっても、まだ犬の何かやってるし、洗面所にいるし。「先に行くね」と赤ちゃん連れて車に乗せて待ってても、そこから30分ぐらい来ないんですよ。イライラしちゃいますよね…。そうやって人にペースを合わせることは苦手ですね。

ーなるほど。アウェーも似た意味ですよね。

そうですね。取引先のレセプション苦手なんですよね。人を紹介してくださるんですけど、紹介じゃなくて自然に出会いたいんですよね。だから、どうしても行かないといけない時は、なるべく隅っこにいたいです。

ーそうなんですね。意外ですね。

ライブハウスとか、取引先のレセプションもそうですけど、色んな人が一同に会するわけですよ。親しい人のイベントやライブだったらめっちゃ楽しいし楽しみなんですけど、どこかでご一緒した人とか、お互い名前は知ってるけど喋ったことはない人がいっぱいいるところはすごく苦手ですね。どうせアウェーに行くんだったら誰も知らないところの方が良いです。

ー確かに、私も、ちょっと知ってる人たちとのイベントって、どう振舞ったら良いのか悩むことがあります。

亡くなった父。残されたお店と母の苦労

ーポピーを継いだのは、どんな経緯だったのでしょうか?

ポピーは、僕が生まれる2年前にオープンしていて、小さい時からずっと「家の仕事は喫茶店だ」と思っていました。でも、昭和とか平成の時代の喫茶店って、“街の片隅の廃れた文化”みたいなイメージが勝手にあったんですよね。家を継ぐことに関しては、「年貢の納め時がきたら」とか「何もやることなかったら継ぐかな」くらいに考えていました。バンドやりながら自分でレーベル運営とかやって、アングラ*で活動して崇拝されるような世界にすごく憧れてたんですよね(笑)。
*アンダーグラウンド(地下)の略で、独特な世界観でメディアで取り上げられないような大衆的でない音楽活動などに対して使われる。

ー喫茶店を継ぐことは、最後の手段だったんですね。

夢ばっかり見てたから、祖母が亡くなった時に親戚内でざわついて、「この店どうしよう」となったんですよね。母に結構真剣に相談されました。当時、前の奥さんの親御さんからも、「もうちょっと地に足を付けないと結婚させられない」というようなことを言われていたので、「じゃあ実家継ぐか」っていうくらいでした。プレッシャーもなく、「今はこれやろうかな!」ぐらいな感じだったんですけど、ドハマリしましたね。

ーそういう経緯なんですね!結婚もきっかけだったということですか?

いや、勿論それもあったんですけど、前の仕事をずっとするつもりもなく、変えたい気持ちもあったし、何か色んなことが重なったかんじですね。

ーそういうタイミングだったんですね。

でも、ずっと親孝行したいという気持ちはあったんです。小3で親父が入院して、小4で亡くなったのかな。もう末期だったらしいんですけど、小3にお父さん死ぬって言われても受け止めきれないじゃないですか。だから隠されてて。

ー小3の子どもには、確かに。受け止めるのは難しいですね。

小さい頃は、家族で夏と冬に旅行をしていたんですけど、ある時の旅行で、お父さんが調子悪くて、お父さんだけ車に残しておふくろと俺と姉で海を見に行ったことがあるんですけど、全然楽しくないんですよ。車に戻ってきたら、やっぱりお父さん大変そうだし。家にいるときはお婆ちゃんも面倒を見に来てくれたりしていて、その雰囲気を感じとりながら、「この船はどこに向かってんだろう」と漠然とした不安を感じるようなことがよくありました。

ー不安ですよね。幼いながらに、異変を感じていたんですね。

お袋が終バスに乗って帰ってきて、寝室の窓で泣いてたりしたんですね。その後、親父が亡くなって。幼心に「お父さんが死んじゃったら、お母さんどうなっちゃうんだろ」と思っていたんですけど、翌日からすごく普通だったのを覚えてるんです。親父が亡くなって葬式も終わって、葬式の次の日に歯医者に連れてかれたんですけど、「こんな普通なの?」って思った記憶があって。きっと無理してたんですよね。

ー普通に過ごそうと、頑張っていたんですね…。

最近その話をしたら、その時お袋は40歳だったと言っていました。商売を始めたのは親父だし、今は普通なんですけど当時は親戚の絡みがちょっと複雑なこともあって、商売だけ残されて、車の免許もないのに色々な喫茶店に物を卸したり、売り上げもどんどん落ちていって…と、大変だったんだと思います。運転する人がいないとできない仕事だったので、その配達の仕事の方は廃業したんですけどね。廃業する時にも相談されたりしました。

ー仕事の引継ぎを一人で請け負うのは相当大変だったでしょうね。

卸の仕事で親父が頼んだ人がもうクソ野郎で、「自分がいないとお前ら食っていけないんだぞ」というのをお袋に対してハラスメント的な感じで言うような人だったんですよ。小学生だった時、その人と食事に行って本を買ってもらったら、母親にめちゃくちゃ怒られました。「あの人に恩を作らないでほしい」って言われて。その時は何となく意味が分かってるようで分かってなかったような気がします。ある時、小学校から帰ってトイレに入ってたら事務所でおふくろが「もうやめてください!やめてください!」と言ってるのが聞こえてきて、俺はもう帰ってきているのに気付いてないから、一生懸命トイレットペーパーをカラカラカラカラ回して、「帰ってきてるんだぞ」というのをアピールしてたのを覚えています。

ー子どもながらに気を遣っていたんですね。

そうだったんでしょうね。それが今ネガティブなしこりになっているわけではないし、お袋もその時のことを思い出くらいに思っているんですけど、当時、特に中学校に入ってからは長い反抗期がありました。家を荒らすとかではなくて、お袋とまともに会話しないっていう反抗期でした。小学校3年で、まだまだ甘えたい盛りだったので風呂もお袋と一緒に入ってたのが、突然空気読んで、甘えれなくなった自分がいました。「風呂も1人で入れたし、1人で寝れたわ」って自分で思ったことを今でもすごく覚えてるんです。

ー本当は甘えたかったけど、自立できるように頑張っていたのかもしれないですね。

だからかもしれないけど、母親に対しての親孝行がテーマな気がします。多分、どれだけ親孝行しても亡くなる時には後悔するじゃないですか。「もっと何かできたんじゃないかな」みたいな。後悔するんだろうけど、今はいい関係なので「良かったな」と思います。親父が亡くなって、自分が始めたことではない店を突然継ぐって、お袋は本当に大変だったと思います。僕にはあまり見せないようにしていましたけどね。

ー苦しんでいる姿を見せまいとしているお母さん見るのも辛いですよね。

見せまいとしているのも分かってたし、仕方ないことも分かってたのに、「なんでうちはこんな冷蔵庫の中のメシばっか食わないといけないんだよ!」と言ったりとか、少年野球の合宿に「なんで俺だけ行けないんだよ!」とか言って、お袋に「ごめんね」と言われた記憶はあります。

ー思春期の時期でもありますし、尾藤さんもお母さんも、大変なことが重なったんですね。でも、喫茶店を継いだことでお2人の関係も変わったんですね。

そうですね。継いでよかったですね。卸の仕事は廃業しちゃったけど、「喫茶店を残してくれてありがとう」しかないです。母には、できるだけ長く喫茶店に立ち続けてほしいと思っています。母との特集の取材を受けたことがあるんですが、それは結構嬉しかったですね。

ーそうやって、尾藤さんがお母さんを想っていること自体が、何よりの親孝行のような気がします。

家族や仲間の幸せを思いながら、自分本位に生きる!

ー尾藤さんにとって、幸せな人生とはなんですか?

自分本位でいながらも、バンドを続けて、波乗りも続けて、娘が波乗りにハマってくれて、遠慮なく一緒に海に行けて、奥さんも「楽しい」「幸せ」と思ってくれて、いつまでもお袋が健康でいてくれて、今いるスタッフが一緒に居続けてくれると嬉しいなと思います。

ー盛りだくさんですね!(笑)

今のメンバー“最強”なんですよ。今のメンバーでずっといけたらいいなと思うんですけど、人それぞれに人生があると思うので、色々迷った末に残ってくれればいいなって思います。

ー“自分本位”という言葉は、私には少しネガティブな印象もありますけど、尾藤さんが言うとすごくポジティブな印象ですね!

自分本位ってネガティブですか?やりたいことをやりたいということです。

ー自分の欲求に正直なのは、とても爽やかでいいですね。

そうですね!!

ー尾藤さんにとって、人生とはなんだと思いますか?

ゲームですね。面白い方がいいし、レベル上げたいじゃないですか。レベルアップいっぱいして、死ぬ時にゲームクリアしたいじゃないですか。それで、天国に行ったら“2”が始まるみたいな。普段は結構深く考えちゃうタイプなんですけど、あれこれ考えるよりも“ゲーム”って思った方が分かりやすくないですか。レベルアップとかもそうだし、地獄みたいなシーンもあれば、海の中のシーンもあれば、空のシーンもあるみたいな。その気になればリセットしてまた頑張れるし!

ーおぉ〜〜!“ゲーム”と言い切れるところが、またかっこいいですね!面白いです。海のシーンはサーフィンですね!

そうですね(笑)。バンドは、小6でギター買ってから始めたんですけど、サーフィンは30歳過ぎてからなんです。波乗りって若者がブイブイやってるイメージですけど、オジさんになってからサーフィンにハマる人は多いみたいで、意外とオジさんばっかなんです。平日の昼間に海に来れるってことは、「みんな経営者さんなのかな」とか、「ヒッピーなのかな」とか色々思いながら、いつも波乗りしています。

ーオジさんばっかりなんですか。確かに意外です。

バンドも楽しいんですけど、人と一緒にやるからどうしてもストレスが溜まる時があります。ライブが“うまくいった”“うまくいかなかった”とかもあるし、「メンバーが理解してくれない」とか思うこともあるし。

ーそうなんですね。誰かと一緒だといろんな気持ちが出てきますよね。

でも波乗りって、1人で車で行けて気楽なんですよね。景色もすごくよくて、100メートルぐらい沖にいったとこから見る海の景色って船からの景色とも違うんですよね。行かないと分からないんですけど、すごく魅力的なんです!波のうねりが向こうの方から来ると、「この波乗れるかな」とか思うんですけど、波乗り同士のパワーバランスもあるから、「今日は上手い人多いし、自分は後から来たし、今の自分のポジション的に優先順位自分じゃないな」とか考えて、譲ったり、逆に譲ってくれたりとか、すごくそのかんじもいいんですよ。

ー皆さん、結構考えて波乗りされているんですね!その雰囲気は知りませんでした。

あと、浜辺からだと“ザバーン”って音の、割れてる波しか知らないじゃないですか。でも、中に入るとうねりは全然違って、モコってなった波が、浅いとこではモコとモコがぶつかって、そこで割れるんですよね。地形とか潮の満ち引きとかで変わったりもして、その迫ってくる感じに萌えるんですよ(笑)。

ーなんかとっても楽しそうですね!その波の感じに萌えるんですねー!(笑)

すっごい気持ちいいうねりの日もあって、もうそのうねりが見えるだけで、何とも言えない気持ちになるんですね。爆音を出すのとはまた違う。「早くあそこに行きたい!」みたいなワクワク感がすごくて。でもローカルの人たちは結構縄張り意識が強いので、周りのことをちゃんと見て、わきまえてやらないといけないので、そういうのも大人のスポーツだなって思いますね。

ーへー!思っていたイメージがだいぶ変わってきました。紳士のスポーツなんですね!

毎週決まった曜日に行っていると、知らないおじさんと仲良くなったりします。おじさん2人と、途中から来る僕と同世代の人との4人が数年前の夏から秋にかけていつも同じポイントにいたんです。大勢がいる場所は苦手だという話をしましたけど、海でもできれば人と仲良くなりたくなくて、ほっといてほしいタイプなんですけど、このおじさん2人はすごく仲良くなりましたね。

ーまさに、“波長”が合ったんですね。

ですね(笑)。おじさん2人は50代か60代くらいなんですけど、帰る時には「じゃあまた」って別れるんですよね。連絡先も知らないし、この先会うかどうかも分からないんですけど、「今日も遊んでいただいてどうもありがとうございます」と言って帰るんですよ。“今日も遊んでいただいて”って言葉がすごいですよね(笑)。“今日も”っていうのも、“偶然今日も会いましたね”という意味を含んでるし、なんか「すごいいいものに出会ったな」と思いましたね。

ー素敵ですね。一期一会的だけど関係がある感じ、温かみを感じます。

そう!連絡先交換する必要もないし、「最近どうですか」って話す必要もない感じがすごくいいんです。ライブハウスで仲良くなると、「じゃ、このまま一緒に飲み行くか!」となるんですけど、そういうのとも全然違う。

ーそうですね。では、基本は一人でサーフィンですか?お友達と行くこともあるんですか?

友達同士で一緒に行って、一緒にサーフィンをすることもありますが、他の友達がいるところに行くこともあります。海から上がるタイミングも「じゃあそろそろ行こうか」っていうのはなくて「俺、そろそろ仕事だから上がるわ」とか、「今日1日休みだからまだ入ってるわ」とか自由な感じです。

ーほんと、自由ですね!

自由なのがいいですね。自分本位に行けるじゃないですか。

ーいいですね、自分本位!

そうですね。あと、波に乗ってる時が楽しいというより、“うねり”が楽しいんですね。もうこの年になると、無心になることやシングルタスクな時って本当にないんですよ。子どものことや今日の晩飯のこと、仕事のことなど最低2,3個同時に考えてるじゃないですか。海に行く間も、仕事のことを考えたり「奥さんにあんなこと言っちゃったな」とか考えながら行って、海に入って波待ちしてる時も「何時には出ないといけないかな」と考えるんですけど、うねりが来た瞬間に、「来た!これ乗れるぞ!」って、それしか考えなくなるんですよね!

ーなるほど~!!

そういう状況ってなかなか自分では作れないじゃないですか。「この波に乗ろう!」って思った時に「えーと、あの人に電話して」とか絶対考えないし(笑)。「すごく大事な時間だな」と思います。

ーなるほど~!その無心の時間がリフレッシュにつながるんですね。これからも自分本位(!)な尾藤さんの、人生のゲーム、ご活躍を期待しております!面白いお話、ありがとうございました!

取材日:2022年4月21日
場 所:喫茶ニューポピー

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