湯に行く…!?温泉を作っちゃえ!
―7つの言葉に“温厚”とありますが。
温厚、学年で1人だけいる誰とでも分け隔てなく接することができる人、表現へのリスペクトが異常、不思議、変だけど尊敬できる、秀吉よりも家康、菅沼翔也を演じている
あんまりキレないからかな…?
―怒ることは?
怒ることもあります。でも表には出さないのかもしれない。
―“菅沼翔也を演じてる”から?これも7つの言葉にありましたね。
“菅沼翔也を演じている”の説明をもらってきたので、聞いてもらってもいいですか?(笑)
―もちろんです!
「菅沼さんは、自分自身を演じているのだと思います。これから演劇や音楽で有名になっていく菅沼という一人の青年の人生を、本気で楽しみながら演じている。だから菅沼さんは舞台などで、自分とは違う別の人間になれることに心の底から喜びを感じているんだろうなと思います。ド変態ですね…。菅沼さんの対人能力や現場を明るくするための調和力は昔から勉強になるなと、よく勝手に観察をさせてもらっているのですが、それができるのは常日頃から物語の主人公である菅沼翔也の内面を自ら役作り(自己分析)し、日常で出会った周りの登場人物のことをよく観察しているからなんだろうなと思います。頭の中にドラマのホームページでよく載っている相関図が浮かんでいるんじゃないでしょうか。」
―すごい!この方の観察力もすごい!(笑)
この言葉をくれたのは後輩なんですけど、おもろい後輩でね。ここ半年くらいかな、飲みに行ったりする仲なんだけど、色々見たり、調べてくれていて、こんなこと言ってきたから、「怖いな!」と思って(笑)
―すごくよく見てくれている…!自分でもそうだと思いますか?
自分自身は演じているつもりはないんですよ。多分勝手にそうなっていると思ってて。
―無意識にってことですね?
無意識ですね。相関図は浮かんでませんが…。
―でも主人公ではある?
うーん、ちょっとメタ的なのかもしれないけど、さっき言ったように、“菅沼翔也”っていう、岡崎から世に出ていく俳優・ミュージシャンとしてこう進んでいくんだって、駒を動かしていく様子が、もしかすると演じているとちょっと重なるところがあるのかなって。
―自分の駒を動かしている感じなんですね!自分が素の時、その自覚はありますか?
ありますね。今とそんなに変わらないと思います。家でも機嫌良い時はフンフン鼻歌したりとか、できればいつもご機嫌でいたいかな。誰かといるときは、その場を楽しく、明るい気持ちの良いものにしたいって思いがあるから、そこは無意識でやっているかもしれないですね。
―コントロールするという話もありましたが、 “菅沼翔也”はこういう人間で、これからこうなっていくという理想像があって、そこに無意識的に寄せていっていることが、演じているように見えるんでしょうか…?
なるほど〜。
―演じているっていう言葉、しっくりきていない感じですか?
今回7つの言葉、全部嬉しいですよ。そう思ってくれているんだと思って、これからの人生のヒントになる気がします。
―“表現へのリスペクトが異常”という言葉もありますね!
多分、演じる側としての表現の話なんじゃないですかね。
―見てくれている人たちは、どう受け取るかわからないという話がありましたが、そこまで考えること、そのこだわりが異常ということでしょうか?
どうなんでしょう。
―ストイックということですか?
足りてないって思ってるから、どちらかといえばストイックな方かも。でも、もっとストイックな人はいると思います。
―この、“不思議”というのは?
さっきお話した、『岡崎菅沼温泉』の企画で女将になってたりとか、口だけでビートルズの楽曲を再現する歌をやったり、僕がやってることが不思議だという意味だと思いますね。
―女将の格好して、縛られてトラックに乗せられていましたね(笑)。あれはどういう経緯で始めたんですか?
事の発端は、2019年に自分の4枚目の音楽のアルバム『ユニーク』を作ったんですね。これはmade in 岡崎で、岡崎の自宅で曲を作って、録音もしたんです。

―こだわりの“made in 岡崎”ですね!
ジャケット写真も、東岡崎駅前に流れる乙川(おとがわ)の河川敷で撮ったりして、まさに岡崎でできたアルバムがあったんですけど…『ユニーク』…、ユニイク…、ゆにいく、湯に行く!?ってなったんですね。
―言葉遊びだったんだ!(笑)
発売記念のライブで“岡崎菅沼温泉 湯に行く「unique」20191221”って入れたグッズタオルを作りました。そうしたら「何これ?なんかよく分からないけど、おもしろいな」と言って、みんな買ってくれたんですよね。
―アルバムの言葉遊びからできた温泉だったんですね!
ちょうど、そこら辺からコロナ禍になってどこにも行けないから、脳内でお湯に浸かってもらおうと思って。温泉だったら女将がいなくちゃと思って、自ら岡崎菅沼温泉の女将になったんですよ。
―本当に女将さんだったんですね(笑)。
そんな岡崎菅沼温泉から派生して、架空の喫茶店とか、架空の洋菓子店とかを作っていって、架空温泉街をつくろうみたいな構想も自分の中で広がっていって。
―架空が広がっている…!
「“女将劇場”があったらおもしろいな」と思って、女将の写真(を使ったポストカード)1枚で物語を紡いでいくポストカード劇場も始めました。今では20作品くらいあります。先ほどの”ロープで手足を縛られた状態の女将”というのもそのうちの1枚です。
―火曜サスペンス劇場みたいでした!(笑)
いずれ、それをリアルな場に持っていきたいなと思っていて、女将劇場をポストカードから舞台につなげたい思いもありながら…。もう連想ゲームです。
―どんどんアイデアが浮かんできちゃうんですね。
浮かんできたら、とりあえずやってみようっていう。
―背景を知らずにポストカードだけを見たりすると、「不思議なことをやっているな」ってなるんでしょうね(笑)。オリジナルよりも、そういったビートルズや火曜サスペンス劇場等のオマージュ作品が印象的ですが、昔のものが好きなんですか?
過去のもので、好きなものや良いと思うものがたくさんあるから、その表現へのリスペクトはすごくあります。先人たちが築いてきてくれたものの上に立っているから、自分の肉体と頭を通して、過去のものがどう出てくるかを考えるのは好きですね。
―古き良きものをリスペクトしているから、ということなんですね。
岡崎にも古き良きものがたくさんあるんですよ。大正時代から続く「龍城(たつき)温泉」という老舗銭湯が最近サウナとしてリニューアルオープンしました。岡崎菅沼温泉とコラボしてタオルを作らせてもらったり、お風呂場の中で盆踊りをするイベントを開催させてもらったこともあります。ひとり素っ裸でカメラを回してミュージックビデオの撮影をさせてもらったのも良い思い出です。(笑)
―楽しそうですね!(笑)。そういう企画を考えるのも好きなんですね!
楽しいですね!そういうことに没頭している時はとても楽しいです!俳優は、台詞などの与えられたものを表現する仕事なので、作詞作曲やライブ、イベント、グッズ制作などの創作活動をすることでバランスをとってるようなところがあるかもしれないです。バランスをとらないと、心身の状態が悪くなってきます(笑)「俳優と音楽とどっちがやりたいの?」とかは、よく聞かれるんですけどね。

―その二択ではないかんじですね。
そう。10代の頃から星野源さんがすごく好きなんですけど、星野さんも最初は演劇から始まって、音楽やって、文筆業もやって、「お前どっちなんだ、二兎は追えんぞ」みたいなことをずっと言われてたそうなんですけど。「松尾スズキさんに『おもろいんじゃない?2つやったら。』と言われて今がある」という話を聞いて、自分もそれに救われていたりします。
―星野源さんはそうだったんですね。そう言ってもらえると、救われますね。
遡れば、伊丹十三さんとかはまさにマルチタレントの走りですよね。昔のコメディアンでも、歌えたり、踊れたり、書けるっていう人もいるし。そもそも、タレント=才能で、才能にあふれた人が世の中に拾ってもらって、バッと出ていくっていうことなんでしょうね。
―なるほど。菅沼さんも、多くの才能を活かしながらやっていくんですね!
いやいや!自分に才能があるとは思ってなくて…「なくても、やっていくんだ!」っていう気持ちでやっています。
―ここに飾られている写真も、菅沼さんの作品なんですよね?
2020年に二十四節気という、1年を24区分した季節の変わり目に、岡崎の街へ出ていって、「いいな」と思った瞬間にシャッターを切るというルールで、1年間写真を撮りました。岡崎市の「彩雲堂」という画材屋さんのギャラリーで写真展を開いたのですが、これは、会場の入り口のところに貼った写真です。フレンズさんが買って下さって、飾ってくれています。

―7つの言葉に“変だけど尊敬できる”という言葉もありますが、“変”とは…?変なんですか?(笑)
変だと思いますよ。でも、色んな印象を持たれるようです。「変だね」って言われたり、パッと会った人からは「好青年だね!」とか、「爽やかだね」で終わる人もいれば、「こじらせてるな~」とか、「変態だな」とか、「エロいな~」とか(笑)。
―第一印象は好青年だけど、中身は変ということでしょうか(笑)?こじらせてるってどういうこと…!(笑)
―“秀吉よりも家康”というのは?
武将隊時代は秀吉役を演じていたけど、その人曰く、菅沼は家康公じゃないかと。家康公って、幼少期は人質で、大きくなってからも信長という圧倒的な存在の下でやってきて、信長亡き後今度は秀吉の下で辛酸を舐め続けて、60歳でようやく天下人になったんですね。この言葉をくれた方は、昔からよく見てくれている方なんですけど、大変な時代もあったけど腐らずに生きてきたので、そういうところをなぞらえてくれたんじゃないでしょうかね。天下って、ちょっと規模が違いますけどね(笑)
―大器晩成型ですね!
「人の一生は、重荷を負うて遠き道をゆくがごとし。急ぐべからず。」という家康の有名な言葉があるんですけど、それはふとした時に思い出しますね。家康のように辛抱強く生きたいと思います。家康と比べたらすごい温室で生きていますけどね(笑)
―なるほど~。その家康のストイックさが好きなところから、菅沼さんの個性を感じますね。
自信がない?それでもいいかも
―学生時代はどうでしたか?誰とでも仲良く、という話もありましたが、学級委員とかしていそうなイメージです。
中学までは学級委員やっていましたよ!誰とでも接するような子だったのは昔からだと思います。やんちゃな子とも、目立たない子とも仲良いみたいな。中学の修学旅行の班決めの時、いつも一人でいる子が孤立するのが分かったから、真っ先に声をかけて「一緒に行こう」みたいなのは昔からやっていましたね。それが、“良い人を演じてる”って言われちゃったらそうなのかもしれないけど、「だったら喜んで演じるぜ」と思います。
―お~!かっこいい!そういう強くて優しいところが他の人と違うんでしょうね。
その声をかけた子は今、立派に社長をやっています。
―今も関係が続いているのは素敵ですね。
昔の話をしていて思い出したんですけど、最近言われてハッとしたのが、「自信ないですよね」って。
―そうなんですか?意外です。
今年、とあるライブをしたときの話なんですけど、お客さんと一体感が生まれて、演奏的にも良いグルーヴで「これは良いライブができたぞ!」と手応えがあったんですが、見にきてくれた関係者の方に「めっちゃ楽しかったよー!でも菅沼くん、全然自信ないよね~!」って言われて…。
―え、不思議な文脈!
「もっと自信持っていいんだよ!」って言い残して帰っていったんです。思いもしない言葉にハッとさせられました。そんなことを仲の良い後輩に話したら「確かに菅沼さんって何か自信ないですよね?」と言われて。
―自信なさそうに見えるんですね。
三男坊というのもあって、親からは「すごいね、いやーすごいすごい!(拍手!)」みたいな感じで育てられているから、どちらかといえば万能感もあったし、若い頃は「自分は色んなことができる」と思ってたはずだんだけど。なんか自信がないらしいです!どうしたらいいですかね?(笑)
―どうしたらいいんでしょう!(笑)「自信がなさそう」と言われることは、心地悪いですか?
そんなに心地悪くは思わないですね。あと、今思い出したんですけど、今池の「得三(とくぞう)」という憧れだったライブハウスに初めて立った時にも、音響さんに「ステージ上は堂々としていいんだよ」って言われたな…。その時に「ああ、なるほど、堂々としていいのか!」と思って。
―そうなんですね。ステージ上でも自分が出すぎないように、調整役になってしまうとか?冷静さを欠いてはいけないとか、高ぶっているものを静めなきゃとかもあるのでしょうか?
あり得ますね。でも、自信がない人がステージに立っててもいいのかもと思う自分もいたりします。
―でも僕としては、菅沼さんが支配している場を見てみたいと思っています。皮を一枚一枚剝いで、殻を破った菅沼さんを見てみたい。多分、「自信がない」とおっしゃった方たちもそれを見たいと思っているから、「もっと菅沼翔也を出せ!」と思ってるんじゃないかな。(岩田)
なるほど~!調整しちゃってるのかな~…。課題ですね。でも、面白い見方ですね。そういう言葉が有難いです。

儚い人生、いかに根を深く、広く、細かく張れるのか。
―菅沼さんにとって、人生って何だと思いますか?
難しいですね~。最近は「めっちゃ儚いな」って思います。あっという間に80歳になっちゃうぞって!ベタですけど、人生いつ終わるかわかんないし、1日1日を大事に過ごしていきたいなと思っています。今、生きてることって、岡崎に生まれたことって、奇跡じゃないですか。確率論で言ったら、とんでもない数字で!せっかくならこの奇跡を楽しんで、少しでもそんな楽しい時間が長く続くように、生きていきたいですね。
―まさに、やりたいことをやって楽しんでいますもんね!
草木を見て人生を思うこともありますね。4月に桜が咲き誇って、みんな綺麗だなって思うけど、桜が散った後の木ってみんなそんなに見ないじゃないですか。でも、花が散っても木は生きてて、仮に幹がスパンと切られちゃったとしても、地面の中ではしっかり根が張られていることは変わらないですよね。人生に置き換えても、外見とか見えてるとこじゃなくて、見えない部分でいかに深く細かく網目のように根を張っていくのかっていうことが大事だと思うし、そんなことをよく考えていますね。
―なるほど~!草木の根とは、深いですね。
草木も人間も根っこが大事で、腐ったらやばい。性根という言葉があるように、性格や考え方を根本から変えるのは難しいかもしれないけど、根を生やす向きは良い方向に変えられると信じているので。葉っぱや花が、季節ごとに移ろうように人間も変わっていくことが前提で、いろんなことを受け入れていこうと思っていますね。
―菅沼さんにとっての根っことは?
物理的に言ったら足腰とかですかね。年老いてからも自分の足で立っていたいし、自分の歯で噛んでいたいし。20代前半から古武道の居合をやっているんですが、足腰とか重心、姿勢についてよく考えるようになりました。あとは、考え方や思想、人との向き合い方とか、時間の捉え方とか、そういったところも“根っこ”と言っていいんじゃないかなと思います。
―私たちも同年代なので、根っこをしっかり張れるように、今から鍛える必要がありますね。そろそろお時間となってしまいました。俳優・ミュージシャン・クリエイターと、様々な顔を持つ菅沼翔也さんの魅力、まだまだ底が知れません。また、ライブや面白そうなイベントを開催される時には、是非教えてくださいね。本日は楽しい時間をありがとうございました!

取材日:2024年4月26日
場 所:喫茶フレンズ