平常心をコントロールする。

―お仕事の変化は激しそうですが、菅沼さんご自身の気持ちの変化はどうでしょうか?ありますか?

日々アップダウンしてます。もう本当にびっくりするくらい、朝起きて「もう絶対無理だ…。」みたいな日もある。

―元気な感じなので、意外ですね!

坂口恭平さんってご存知ですか?熊本県在住で、建築家であり、作家であり、歌も作って歌うし、絵も書くような多才な方いて。躁うつ病と公表されてるんですけど、その方の本とか日々のSNSでの発言を見ていると、とても他人事だと思えない。

―躁うつ病の坂口さんに共感している? 

坂口さんいわく、躁うつ病は病じゃなくて、その人の個性のような性質で一生変わらないから、付き合って自分でコントロールしていくものだと。「そうか!」と思って、それを意識して生活しています。細かいアップダウンも多いけど、今日は良い状態です(笑)

―クリエイターとかはそういう方多いですよね。(岩田)

何かを表現する人は、どこかそういう傾向があるのかもしれません。

―そうなんですね。“コントロールしていくもの”という言葉に、なるほどと思いました。芸能活動を始めた最初の頃はどう感じていましたか? 

スカウトされた時は、やっぱり嬉しかったですね。

―嬉しかったんですね!

そうそう。嬉しくて勢いで「よーし!」って、飛び込んだけど、すぐに何もできないことに気づいて。武将隊に入った当初は、ただの素人だから全然できなくて、先輩やお客さんにもボロクソ言われるし。できてないことは誰よりも自分が分かるから、へこんで落ち込んで…。

―そうだったんですね。落ち込んでいたこともあったんですね。

とはいえ、出来ないなりにもがいてやっていたら、ちょっとずつ結果や信頼もついてきました。武将隊の時は生活が維持できるくらいの仕事は保障されていたから良かったんですけど、卒業してからは、またイチからスタートって感じだったので、落ち込んだ時期もありました。

―安定したお仕事がなくなると不安になりますね。

でも、そこからは、仕事のことで一喜一憂しないようにしようと思っていました。大河のオーディションに受かった時もめっちゃ嬉しかったけど、「ここが最高点じゃない」と思って。「ちゃんと足元見ていこう。一回で終わっちゃダメで、これをまた次につなげよう」って冷静に考えるようになりました。今のキーワードは、平常心ですね。

―平常心、大事ですね。落ち込んだ時にやめようと思ったことは?

それが、幸いにも一回もやめようと思ったことがないんですよ。火種が消えたらやめ時だと思うんですけど、「まだまだやってやるぞ!」みたいな感じで燃え盛っています(笑)若い時よりも今の方が強いです。

―何が原動力になっているんですか?

やっぱりこの仕事が好きっていうのが大きいと思います。上から俯瞰して自分を見て、今は全国では無名で超ローカルでやっているけど、この何もない状態からどうなっていくのか、可能性を想像する楽しさみたいなものもあるかもしれません。まだ何者でもないんだけど、10年間、試行錯誤しながらちょっとずつ経験も積んできて、「こうした方がいい」とか「これはしちゃだめだな」というようなことが分かってきて、ようやく自分でコントロールできるようになってきた感覚があるんです。

―自分がどうなっていくのか楽しみ、というのは面白いですね!ご自身のことを、すごく冷静に客観視されていますよね。

めっちゃ冷徹に見てると思います(笑)今の時代ではご法度ですけど、昔、自分の仕事の至らなさが原因で「ぶっ◯すぞ」って言われたことがあるんですよ。

―えー!?

自分の仕事に対する甘い考えが原因で、ものすごい鉄槌をくらったんですね。そういう経験もあるし、周りでも調子に乗って消えていった人もいっぱい見てきたから、そうやって冷静な平常心が身についたのかもしれません。変に一喜一憂しないように気をつけてはいます。

―目標となるような、憧れの俳優さんはいますか?

初めて憧れを抱いたのは、名古屋出身の滝藤健一さんです。大学生の時に、テレ東の深夜枠で『俺のダンディズム』という滝藤さんの初主演の連続ドラマが放送されていたんです。その時は俳優になりたいと思い直した時期だったのか、俳優という仕事を意識しながら見ていて。そのドラマを見て、“演じる”ということを改めて「すげえ」って思ったのを今でも覚えていますね。

―滝藤健一さん、名古屋出身だったんですね!

名古屋の本山に、滝藤さんが高校時代から通っていた洋服屋さん*があって、そこの店主の方が今は滝藤さんのスタイリストになっているそうなんですね。一回お店に遊びに行って、一ファンとして、滝藤さんのお話をさせていただいたことあります。たしか「ビバリーヒルズチキン」というお店なんですけど。*現在は移転しています。

―滝藤さんを近くに感じられて、ファンとしては嬉しいですね!

マネージャーと喧嘩別れ、甘ちゃんだった“新宿事件”

―事前に頂いている7つの言葉では、「学年で一人だけいる、誰とでも分け隔てなく接することができる人」って言われていますね! 

のようですね(笑)

―今までのお話を聞いて、話し方はソフトだし、常に冷静に考えて発言されている感じもして、言葉通りのお人柄が想像できてきました。

どうなんですかね。でも、過去の自分を考えるとね、目も当てられないです。

―そうなんですか?!

甘ちゃんすぎて、20代とかの自分って嫌ですよ。

―ちょうど『サタメン』に出演されていた時期ですか?

思い返すと、自分じゃない人を見てるかんじ…。嫌だな〜ってなります。

―自分のメタ認知がすごいですね。何がそんなに嫌なんですか?

当時、マネージャーさんがいて、今思えば、自分のために色々考えて動いてくれていたにも関わらず、若気の至りなのか、自分がそれ以上に自分のことを考えられていなかったから、ぶつかったことがありました。東京に挨拶回りに行ったときに、新宿の高架下で口論になって、そのまま別れたり…。

―口論に?菅沼さんが?

当時のマネージャーさんに「あの時なんであんなこと言ったの?」と言われて、「いや、〇〇さんがこうだったからでしょ…!」と言ってしまい、「じゃあいいわ!もう1人でやっていけ!」と。僕も「わかりました!」みたいな(笑)。

―本当に口論だ…!それ程、お互いが本気で取り組んでいたんですね。

経験ありませんか?そういう、言っちゃいけない、超えちゃいけないラインを超えちゃったみたいな。

―そうですね、誰にでもありますよね、きっと…。超えちゃいけない線はどちらから超えちゃったんですか?

こっちからピョーンと、軽々…。

―あら…その時、その線は見えていた?

見えていなかったです。灯台下暗しというか、足元が見えていなかったんでしょうね。自分のそういう行いにすら気付けない子どもだったから。

―マネージャーさんはどういう方だったんですか?

元々はテレビのディレクターです。「マネジメントをしたい」と会社に掛け合って、そのタイミングで見つけられたのが自分でした。

―ということは、マネージャーさんからしたら、菅沼さんは自分が見つけた“原石”で、「これから大きく育てていきたい」っていう強い思いがあったからこそ、ぶつかってしまったんでしょうか?

そうかもしれません。年が10個ぐらい上のバリバリのキャリアウーマンでした。人との向き合い方とか、関係性の築き方が、まったく分かっていなかった自分に原因があります。

―社会に出る前だと、なかなか分からないですよね。

多分それを自然とやれちゃうような人が売れて、そういうことができない人がこの世界を離れていくんだろうとも思います。今も足りているとは思ってないんですけど、僕は一応、途中で気付けてちょっとずつ軌道修正しながら来れているのかな…。気付かせてくれた人達には頭が上がりません。

―仕事の経験がない学生だと、マネージャーという仕事がどんなものなのか、どういう思いで、裏でどれだけ動いてくれていたのかっていうことも想像しにくいですよね。

そうなんですよ。専属のマネージャーがいたのは、すごく恵まれていたなって感じます。今は、自分がプレイングマネージャーみたいな感じで、先方とのやり取りもスケジューリングも自分でやることが多いから、マネージャーの仕事について改めて考えることも多いです。事務所の仲間のことでも、自分が窓口になることもあるので。

―マネジメント業務もされているんですね。

どちらの立場も経験したことで、どうしたらお互いにもっと気持ちよく動けるか、動きたいと思わせることができるかということが分かるようになりました。仕事だからもちろんやるんだけど、言葉ひとつで気持ちが乗ったり乗らなかったりすることもあって。そういうのが積み重なっていくと、ある時に大きな音を立てて崩れることもある。日頃のコミュニケーションの取り方ってすごく大事だなと痛感しています。

―なるほど、その時のマネージャーさんの気持ちも理解できるようになったとか…? 

当時のマネージャーさんとちょうど同じ年くらいになって、今はすごく気持ちが分かります。最近も会う機会があって、その“新宿事件”は2人の間ではもう笑い話になっているんですけどね。

―お互い許し合えたんですね!

「あの時は僕が本当に悪かった…」、「いえいえ、あたしもさ…」みたいな感じで。

―良かったです…!その“新宿事件”が、菅沼さんの生き方にも大きく影響した出来事のようですね。

―現在は、仕事をどのように取っていますか?自分で選ぶんですか?

基本的にはオファーをいただいて引き受けるかどうかを決めることが多いです。自分の中で違和感が生まれたら立ち止まることにしています。先輩から「若いうちはなんでもやれ」って言われていたから、ブルーギルのように何でもパクパクパクパク食べるように引き受けていた時期がありますが、今はしっかりとジャッジしています。

―どういった基準なんですか?

偉そうに聞こえますが、これまでの仕事を振り返って、点検して、判断材料にしています。ちょっとでも違和感を感じたら立ち止まるというか…。「これやってよかったな」とか「あんまりだったな…」っていう感覚は、やっぱり“最初に違和感があるかないか”が大事なポイントだと思うので、その辺りを大切にしています。

―違和感のあるまま続けても、実にならなかったんですね。

もちろん、失敗することもありますけどね。20代の自分と今の自分では、求められることも変わっているし、それは絶えず考えながらやっています。判断が難しい時は事務所に相談しますけど、最初に自分でジャッジしないといけないからなかなか難しいですよね。

クリエイティブな活動は、とにかくインプットに限る!

―他に影響を受けた方はいますか?

今の事務所の代表が、仕事を通して、多くのことを教えてくれました。厳しくもありますが、愛のある方ですね。

―多くのこととは、どんなことを?

簡単な例だと、“連絡を早く返す”とか、“大事なことは午前中に話す”とか。社会人として当たり前のことですね。あとは、クリエイティブなこともそうですね。作ったばかりの歌を聴いてもらって「こうした方が良くなるんじゃないか」とアドバイスをもらったり、舞台の稽古で行き詰まっている時にモヤが晴れるような一言をもらったり…。コーチングのような感じでいつもご指導いただいています。全部受け容れてくれるので、なんでも相談しています。

―その代表の方も、芸能活動をされていたんですか?

元々は吉本で、山口智充さんやココリコさんの座付き作家としてネタを考えていた方です。その後、放送作家として東京、大阪、名古屋で仕事をし、17年ほど前に名古屋にテレビ番組の制作会社ホーボーズを立ち上げました。今では、先にも出ましたテレビ愛知『工場へ行こう』『千原ジュニアの愛知当たり前ワールド』CBC『太田×石井のデララバ』『大家族チャンネル』などを作っています。

―番組を作る側だった方なんですね。

代表のインプットの量がとにかく半端じゃないんです。本や映画、音楽にせよ、尋常じゃない量のインプットをしていて、そこも影響を受けています。

―おー、インプット量ですか!

人が集まって何かをクリエイトするには、共通言語はたくさん持ってた方がいい。何かを表現することにおいては、そこを通ってきてるか通っていないかで、大きな違いが生まれるから「意図的にどんどん取り入れて蓄えろ」と。実際に真似してインプットを心がけていますが、だいぶ前に取り入れたことや言われたことが、最近取り入れてたことと紐づいたり、自分が体験して感じたこととリンクして、ある時ふいに創作に生きる瞬間がやってくることもあります。

―たくさんのインプットが、ある時何かを生み出すんですね!

具体的にこうしろって言われるよりは、仕事に対する姿勢だったり、考え方を学ばせてもらうことが多いですね。

―代表の方は吉本出身とのことでしたが、お笑い要素も影響を受けたりしているんですか?菅沼さんのホームページに面白い写真がたくさん載っています(笑)。

岡崎菅沼温泉』ね!今日これ、プレゼントしようと思って持ってきたんですけど(岡崎菅沼温泉のタオル)。

―えー!ありがとうございます!!本当に温泉旅館のタオルみたい!(笑)

こういう企画についてもやり取りをしています。「こういう企画を考えたんですけど、どうですか?」みたいに。

webサイト 菅沼商店より

―菅沼さんが女将の格好したりと、ネタみたいな写真もたくさんありますよね?(笑)

お笑いはめっちゃ好きなんです。だけど、すごく尊敬してるからこそ、自分がお笑いをやれるとは思っていないんですよ。“自分のことを面白い”とは思っていないから。でも、自分が面白いと思う“こと”はあって、それがもしかしたら“お笑い”にカテゴライズされることはあるのかもしれない。

―なるほど!お笑いを尊敬しているから、逆に軽々しくできないということですね。代表から影響を受けたのではなくて、純粋に菅沼さんが面白いと思うことをされているんですね。

イケメンコンテスト「名大KING」

―スカウトされた理由はご自身でご存じですか?聞いたことありますか?

どうなんですかね?きっかけは、「名大KING」でしたね!大学生向けフリーペーパー主催の「名大KING」っていう名大のイケメンナンバーワンを決めるコンテストがあったんです。で、KINGになったの!まさかのね(笑)。

―すごい!名大イケメン、ナンバーワンとは!

大学3年生の頭ぐらいだったかな?当時のマネージャーがその情報を入手した、と言っていました。それで、名大KINGを探しに来てくれたそうです。

―じゃあ、イケメンを探しにスカウトしにきたのではなくて、元から菅沼さん狙いだったんですね!「名大KING」に出場したのがきっかけということですね!

よくある話だけど、友達が応募していたんですよね。「やめろよ~」とか言いながらも、内心どこまで行くのかな?みたいな。そしたら、「おい、KINGかい!」みたいになって(笑)

―友達すごい!人前に出ることに、抵抗はなかったんですか?

なかったですね!チャンスがあればっていうかんじで。親には「名大KINGなんかになっちゃったもんだから、人生間違えて~」みたいなことを言われたこともあります(笑)

―え!それ、どれくらい真剣なんですか?結構傷つくと思うんですけど…。

そうですね(笑)でも、日常生活、そういうことありません?この言葉で傷つくとか傷つけるって、受け取る相手次第ですよね。「第1声何て返そう?」とかね。色んなことに傷ついてきたからか、すごく気をつけています。

―そうなんですね。傷つけられたと思う経験が多いからこそ、「傷つけないように」って思うんですよね。

ここの感性がないと、俳優やれないと思うんですよ。やれないといったら、ちょっと語弊あるか…。

―演じる時に大切な感性なんですね。もう少し詳しく教えてください。

セリフは決まっているけど、その言葉にどんなニュアンスが含まれるのか、又は含ませることができるのかが大切で。“自分は傷つかないけど、それで傷ついてしまう人がいる”ということまで、思いを馳せられるかどうかって、何かを演じるときにめっちゃ重要なことだと思うんですよ。あと、共同作業でもあるので、例えば舞台だと顕著なんですけど、稽古期間を1か月くらいやった時なんかは、芝居の外の関係性が、芝居の良し悪しに出てしまうことがあるんですよ。相手のことを信頼できているかいないかが、よく分かる。心から信頼してやってるときは、やっぱり空気感が全然違うんですね。

―そういう視点で見たことなかったです!じゃあ、「この舞台すごく面白いな、心地良いな」って思ったら、きっとその現場の人たちは、信頼関係がちゃんとできているんですね。

そういう場合が多いと思います。上手く演じるというよりも、自分の肉体と頭と心を通して演じるわけで、この器がちゃんと手入れされてないと役がきれいに入らない気がする。これは最近よく考えています。心の針が触れるか触れないかの差はやっぱりそういうところがある気がしますね。演技が下手でも、ぐっとくる場合もあるし。

―なるほど~、自分の器や信頼関係と、奥が深いんですね。

面白いのは、俳優同士もそうだけど、俳優と演出家の信頼関係も欠かせない。「あ、演出家のこと全然信頼できていないだろうな」って感じる舞台もあるし、演出家が俳優に期待していなくて、どうせできないと思って、「やっつけ仕事してる…」というのも嫌なぐらい伝わる。でも、これは自分がこの仕事をしてるから、よりそういう目で見ちゃうんだと思います。お客さんとして純粋に楽しむ気持ちで見る分には、楽しめるとは思うんですけどね。…こんなこと話し始めたら止まらないです。東岡崎の居酒屋押さえましょうか?(笑)

―(笑)面白いですね!菅沼さん、スピリチュアルな感性も高そうですね!

精神世界とか、目に見えないこととかはとても興味があります。

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