モヤモヤの原因を紐解かないカウンセラー

―他に「こんな人でありたい」というのはありますか?

人と向き合うことを怠らない自分でありたいですね。疑問を感じた時、“まぁいっか”で済ますことは簡単ですが、その人のためにならないこともあります。「なんで?」って聞いて突っ込んでいくことは、その人の人生や考え方に踏み込んでいくことになるので、もちろん大変だと思います。ただ、全部を「いいと思うよ、あなたがそう考えているなら」という姿勢でいると、聞こえはいいけれど、関わることを避けているような感じがしてしまうんですよね。だからこそ、ちゃんと向き合い、ちゃんと話をする人でありたいなと思います。

―素敵ですね。根本的に人と関わることが好きなんですね。

そうですね。カウンセラーの仕事を時々しているんですけど、カウンセラーって相手の変化を待つかんじなんですよね。コーチングは変化を促すことが多いですが、カウンセリングでは自分の言葉を介して“自分自身の気づきを促す”という、すごく時間のかかることなんです。

ーなるほど。自分で気づいていくんですね

相手のことを受け入れて言葉を返していくというイメージですね。クライエント(お客さん・話し手)が何かモヤモヤを抱えていたとしても、私はモヤモヤの原因を紐解いたりはしません。あくまでもその人自身が紐解いていって、“私はそこに関わっているだけ”という位置付けなんです。

ー簡単な役割ではなさそうですね。

例えば「私はこれが好きじゃないんだよね」と言うクライエントがいたとします。それに対して、「そうなんですね、これが嫌いなんですね」と言葉を返すと、「嫌いなわけじゃないんだけど・・・この人は理解してくれない」と思われてしまうこともあります。これでは信頼関係を築けないので、相手の言葉をそのまま返すことが多いです。「好きじゃないんですね」と。人の言葉の選び方って、本当に多様で面白い。カウンセリングはこんな地道なことの積み重ねだけれど、ただ聞いているだけでもなくて・・・本当に奥が深いんです。

―カウンセラーの勉強はどこでされたんですか?

「一般社団法人日本産業カウンセラー協会」というところで学びました。「aichikara」でボランティアをしていた学生の悩みや、被災者・避難者の方の悩みを聞く機会も多かったので、資格を取得しようと思いました。

ーそうなんですね。

カウンセリングの勉強はとにかく実習が多くて、すごく勉強になりました。5〜6人のグループで先輩カウンセラーが指導してくれるんですけど、ものすごい修行なの(笑)。 “研鑽”という言葉が耳から離れないくらい“自己研鑽”に努める集団・・・(笑)。とにかく、トコトン鍛えられました。

ー日常会話に“研鑽”てあまり出ないですよね(笑)。

自分が思っている方向に相手を導きたくなってしまうと、やっぱり言葉に現れちゃうんですよね。それを変えていくことは、とっても大変でした。でも、大変だったからこそ、たくさんのことを学んだと思います。

―関わった人が変化したという経験はありますか?

正直、わからないです(笑)。変わることを求めてしまいがちだけれど、カウンセラーはそれを求めたらいけないんだと思います。話すことで少しでも気持ちがスッキリしてくれればいいかな。「自分は一人じゃない」と思ってもらえるだけでも意味はありますよね。

自分が買ったTシャツが、もしかしたら誰かを傷つけているかも?

―色々なことに挑戦されている、なる美さんの原動力は何でしょうか?

うーん。何でしょうね・・・あります?自分の原動力。

ー“怒り“ですかね、社会や自分に対しての・・・。自分の場合は、公平性を欠いているような、明らかにおかしな出来事に対する怒りが強いですね。(岩田)

おー、アーティストらしい回答!でも、私もそれわかります。私の場合は、“社会に対する怒り”が強いですね。 怒りをポジティブな言葉に言い換えるとしたら、“変化を求める心”なのかなって思います。良くしたいと思うからこそ出てくる感情。

―社会に対する想いが強いんだなあと感じます。いつも思っていることや、選択の基準にしていることはありますか?

“人と社会と地球に優しいかどうか”、ですね。

ーなるほど。

「ブラッドダイヤモンド」という映画を知っていますか?アフリカでダイヤモンドを採掘している人たちが搾取されていることを伝える映画で、「自分が購入する物が、知らないうちに誰かを傷つけている」ということに気付かされるんです。何年か前にはバングラデシュで、工場の増築が原因で倒れてしまい、多くの人が亡くなったというニュースもありましたよね。それがもしかすると、自分が着ているファストファッションの工場かもしれないし、そんな劣悪な環境で働かせている可能性がある物を自分が選んでいるかもしれない。

ーそれは・・・ショックですね。

ですよね。だから、物が売られるまでの背景を理解して、人地球を大切にしている企業の物を買いたいと思っています。できる限りね。ちょっと極端な例だけど、自分のTシャツ一枚でも、そういう背景があるかもしれないと意識しておきたいです。

ーそういうことなんですね。近頃オーガニックなどをPRする商品は増えてきましたよね。

うん。フェアトレードとか、エシカルとか、いろんな言葉も認知されてきたよね。

―本当にそれが人や地球に優しいかどうか、見分けるポイントってありますか?

正直、難しいよね。会社の理念や取り組みをしっかりと見ることかなあ。

ーなるほど。

今年のお年賀には、愛知県豊橋市に運営会社の本部がある「久遠チョコレート」のチョコレートを買いました。障がい者を始め様々な背景のある方の雇用推進をしていて、デザイン性も高いチョコレートを販売しているんです。理念が素敵なので、贈り物をするときはそういう商品を選びます。やっぱり、みんなが幸せになるものを選びたいんです。自分が「いいな」と思って買った物が、誰かの生活を苦しくさせていたら悲しいから。大事な贈り物の時は特に、なるべくこういう基準で選ぶようにしています。

私も素敵な何かを生み出したい

買う人も作る人も、みんなが幸せになるものってことなんですね。

そうそう。大切な時ほど、理念とか生産背景がわからない物は選ばないようにしています。

見た目だけ良いものとか、いっぱいありますもんね。

こんな風に、人や社会に良い商品ってお値段はなかなか張るんだけど(笑)、物でも食材でも、結果的にこれが社会をつくっているって考えると、「消費者の選択って大切だな」って思うんですよね。このイヤリングもその一つなんです。これは「HASUNA」というエシカルジュエリーのブランドです。エシカルジュエリーの先駆者と言える愛知県一宮市出身の女性が創業されていて、とっても素敵な会社です。私たちの結婚指輪は「HASUNA」です。私自身もそんな風に「素敵な何か」を生み出したいと思っています。

SDGsに取り組みたい人も、買う物の選択ならすぐできそうですね。「社会のために何かやりたい」と思う人に、なる美さんならどのようにアドバイスしますか?。

なんでもやってみたらいいと思うんだけど、目の前にチャンスがないと、なかなか難しいのかなとも思います。街頭で募金の協力をお願いしていた時に、「東北のために何かをしたいと思っていたけど、何をしたらいいかわからなかった。でも、募金ならできると思ったから。」と言って募金してくださった方がいたんですよね。結構印象的でした。

ーずっと「何かしたい」と思っていたけど、機会がなかったんですね。

そうそう、そうだと思うんだよね。その方が自分の想いを私に伝えてくれたから、私自身の学びにもなった。機会を待っている人もいるんだなあって。

ーそうなんですね。

一方で、「こんなことやりたい」と明確な意思があるなら、そのまま迷わずにやってみればいいと思うな。私はpaletteのサイトを公開するまでに3年かかってるけど、3年前に「社会のために、何か新しいことを考えたいから集まってほしい」と連絡をして友達が集まってくれたからこそ、今があるんだよね。

ーざっくりな声かけですね(笑)。

本当に、集まってくれた友達には感謝しかないよ。あと、「この人いいな」とか「この話共感するな」と思った時に、自分の気持ちを伝えてみてほしいなあと思います。

ー街頭募金の時の方のように、ってことですね?

うん。「あなたの話共感しました」とか「私はこう思っています」とか、気持ちを伝えるだけでも、世の中にいいことがまわっていくような気がする。私は、その方に伝えていただいてとても嬉しかったよ。

「悲劇のヒロインスパイラル」に入り込むこともあります。

―最後に、 なる美さんは人生ってなんだと思いますか?

楽しむための遊びでもあるし、修行の旅でもあるなと思います。何かを探し求め、そして何かを実現するための修行の旅、みたいな感じかなと。目的なく遊んでいるだけで生きていける人って、ほとんどいないですよね。みんな何かしらを実現させたくて、そのために何かに取り組んでいて。それでも、それが一体何なのかわからない場合もある。分からないからその“何か”を探し求めるし、その繰り返しのような気がする。この過程が成長していく修行のようにも感じるんですよね。

―何かを探し求め、実現させる修行の旅ってことですね。

うん、そうやって人生で何かを実現しないと、楽しくないんだろうなと思います。でも、苦しい人生を求めてしまう瞬間もあるような気がします。 『幸せになる勇気』という本があるくらい、幸せになる勇気って、意外と簡単に持てないんだなって時々思いますね。私自身も、「悲劇のヒロインスパイラル」みたいなものに入り込みたくなることがあります(笑)。というか、入り込むこともあります(笑)。

意外ですね(笑)

そこから抜け出すことは簡単ではないし、覚悟が必要だけど「幸せになる勇気を持つぞ!」と言い聞かせています。「せっかくなら楽しむことを意識した方が人生楽しいよな!」って思います。「“人生をどれだけ楽しめるか?”という修行」でもあるのかな。何かと、修行が好きみたいですね、私(笑)。

―なるみさんらしい言葉ですね。本日はお話、ありがとうございました!

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